認知症の「行動・心理症状」と「中核症状」を理解しよう! 対応のコツもご紹介

認知症の「行動・心理症状」を理解しよう! 対応のコツもご紹介します
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認知症に対して、どのようなイメージがありますか?

  • 自宅の近所を徘徊して、迷子になってしまう
  • 家族にお金を盗られたと主張して、口論になる
  • トイレに行かれなくなり、失禁してしまう

このような症状を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか?

これらは認知症の中でも「行動・心理症状」に分類されており、上に挙げたものはその中のごくごく一部。症状の現れ方はご本人のもともとの気質や性格、取り巻く環境や人間関係などによって、数え切れないほどのパターンがあるのです。

今回はそんな「行動・心理症状」をピックアップ。具体的な症状の種類や和らげるポイント、治療法などを詳しくご紹介します。

「行動・心理症状」はご本人はもちろんのこと、介護するご家族にとってもQOL(生活の質)を落とす要因となります。改善が見込まれるものですので、過ごしやすい毎日を目指して対応を工夫していきましょう。

目次

認知症の症状は「行動・心理症状」と「中核症状」の2つに分けられる

認知症の症状は「中核症状」と「行動・心理症状」の2つに分けられる

まずは「行動・心理症状」について、概念の部分から理解していきましょう。

認知症の症状は、脳が認知症による病的変化で機能が低下して起こる「中核症状」と、それが原因となって引き起こされる二次的な症状「行動・心理症状(BPSD)」の2つに区別されます。

認知症の「中核症状」とは?

中核症状とは、脳の神経細胞が壊れることによって起こる認知機能障害です。

具体的には「新しいことが覚えられない」「日付や場所がわからない」といった症状から始まり、認知症の進行ともに「目の前にいる人が誰なのかわからない」「会話が理解できない」「それまでできていた日常動作ができない」と、徐々に日常生活が困難な状態になっていきます。

これら中核症状は認知症の初期段階からほぼ全ての人に現れるのが特徴で、現在の医療では完治させることができません。それゆえに、認知症ご本人は「だんだんわからなくなっていく」という恐怖を抱えながら生活していくことになります。

認知症の「行動・心理症状」とは?

一方、行動・心理症状は中核症状によって引き起こされる二次的な症状を指します。

かつては中核症状に付随して発生するという意味で「周辺症状」と呼ばれていましたが、近年は「様々な要因が複雑に絡み合って、行動面や心理面に症状があらわれる」という観点から、こちらの名称が一般的になりました。

「認知症の行動と心理症状」を意味する「Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia」の頭文字を取って、「BPSD」と略されることもあります。

具体的な症状は、暴言や暴力、徘徊、介護拒否、抑うつ、不眠、幻覚、妄想など、人によって多種多様。その人が置かれている環境や人間関係、もともとの気質や性格などが複雑に影響するため、全く出ないこともあれば、かなり強く出る場合もあり一概にいえません。

介護者にとっては中核症状よりも行動・心理症状の方が負担を感じやすく、対応に苦慮するケースも多いでしょう。

しかし、避けようがない中核症状に対して、行動・心理症状は周囲の環境や対応の仕方によって改善が見込まれるのも心得ておきたいポイント。ご本人に寄り添った対応で症状の緩和を目指しましょう。

詳しい対応のコツは後ほど詳しくご紹介します。

「行動・心理症状」ではどのようなことが起こるの?

「行動・心理症状」ではどのようなことが起こるの?

ここからは、認知症による行動・心理症状の具体例を見てみましょう。人それぞれ症状の現れ方は様々ですが、とくに起こりやすい代表的なものをご紹介します。

徘徊

あてもなく歩き回る徘徊は、見当識障害や記憶障害に加え、ストレスなどが原因となって起こります。道に迷ってしまった・行きたい場所があるなどご本人なりの理由があっての行動ですが、事故や怪我などのリスクが伴うため、介護者の負担も大きくなりがちです。

帰宅願望

「そろそろ帰ります」「うちはどこですか?」といったように、たとえ自宅にいても「家」を探して帰ろうとする帰宅願望。見当識障害によって、今いる場所や置かれている状況がわからない不安が引き金となって起こります。とくに夕方に症状が出ることが多く、徘徊につながることも。

お金や物への執着

記憶障害が現れると「大切なことを忘れてしまう」という不安から警戒心が強くなり、お金や物への執着が見られることも少なくありません。その背景には、厳しい状況でも家族を守って乗り越えてきた経験が関係していることも。介護者への物盗られ妄想へ発展しやすいのも特徴です。

介護拒否

入浴や着替え、排泄、食事といった生活のあらゆるシーンでみられる介助への拒否。自尊心や羞恥心が関係しているほか、認知機能の低下によって、食事や入浴などの生活動作そのものの必要性がわからなくなっている場合などその原因は多岐に渡ります。

失禁

男女問わず起こりやすいのが排泄系のトラブル。身体の排泄機能は正常でも、認知症の進行とともにトイレの場所がわからなくなったり、尿意自体を認識できなくなったりすると、トイレ以外の場所での排泄や失禁が起こりやすくなります。

弄便(ろうべん)

おむつの中の便を素手で触ったり、その便をどこかへ隠すような行動に出る弄便。便を認識できなかったり、他のものと誤認していたりするケースがあります。これらの根本にはおむつへの不快感や失禁への羞恥心が影響している場合も少なくなく、尊厳を守った対応が必要となります。

食行動の異常

必要以上に食べすぎてしまう過食、食事を受け付けない拒食など、食行動の異常も認知症ではありがちです。認知機能の低下が原因となっているほか、ストレスが影響している場合も。食べ物以外の物を口に運んでしまう異食は、窒息の恐れもあるので注意が必要です。

暴力・暴言

認知症の進行に伴って脳の機能が低下すると、様々な感情をコントロールするのが難しくなる感情失禁が起こることがあります。根底には不安や出来ないことに対するもどかしさがありますが、人が変わってしまったような様子にご家族は戸惑われることも多いでしょう。

多弁・作話

記憶障害が起こると同じ話を何度も繰り返したり、真実ではない話(作話)をしたりすることがあります。しかし、ご本人にとっては「初めて話すこと」であり「本当のこと」なのです。多弁自体はそれほど大きな問題はないものの、作話からトラブルに発展することも。

妄想

認知症患者の15%に見られるという妄想。お金を盗まれたと訴える物盗られ妄想や、夫が浮気をしていると思い込む被害妄想など、人によって様々です。記憶障害によって起こるほか、根底には不安やストレスがあることが予想され、QOLを著しく低下させる要因となっています。

幻覚

幻覚には、見えないものが見える幻視、聞こえない音・声が聞こえる幻聴、実際にはない匂いや触感が感じられる幻臭・幻触などがあります。いずれも脳の機能障害が原因ですが、目が見えにくくなった・耳が聞こえにくくなったという不安感が症状を強めている可能性も考えられます。

不安・抑うつ

認知症の進行による心理的負担は相当なものです。できないことが増えていく不安感やそれに伴う自尊心の低下は計り知れません。これに加えて脳に器質的な変化が起こることで、抑うつの症状が悪化しやすくなります。心の不穏状態は行動・心理症状自体を強める要因になるので、悪循環に陥らないよう対策が必要です。

易怒性

脳の機能低下により感情を抑えられなくなり、怒りっぽさや興奮が目立つことがあります。それまでの性格が影響している場合もありますが、環境や体調に左右されやすいのが特徴です。暴言・暴力につながることもありますが、これも症状の1つなので冷静に対応しましょう。

睡眠の異常

認知症になると体内時計を司る部分の働きが低下し、睡眠のリズムが崩れやすくなります。不眠や中途覚醒、早朝覚醒を起こして夜に眠れない状態が続くと、昼夜逆転につながる恐れも。他の行動・心理症状を悪化させる要因にもなりますので、早めの対処が重要です。

アパシー(無気力)

感情が欠如し、いわゆる無気力・無関心状態に陥るのがアパシー(apathy)です。うつ病と間違われやすいですが、これも認知症の行動・心理症状の1つ。わかりにくい症状なので見逃されやすいですが、残存機能の低下につながる恐れがあり、看過できない状態です。

認知症のタイプ別:起こりやすい「行動・心理症状」って?

認知症のタイプ別:起こりやすい「行動・心理症状」って?

認知症はその原因となる疾患によって、大きく4つのタイプに分けられます。ここからは、各タイプで起こりやすい行動・心理症状の傾向を見てみましょう。

アルツハイマー型認知症

認知症の原因疾患のうち、最も大きな割合を占めるのがアルツハイマー病です。こちらを起因とする認知症は、症状が緩やかに進行するのが特徴的。初期は不安や抑うつ、妄想が起こりやすく、症状が進むにつれ幻覚や徘徊、食事や排泄系のトラブルなどが増える傾向にあります。

レビー小体型認知症

脳にレビー小体という異常物質が蓄積して発症するレビー小体型認知症。記憶障害はあまり目立ちませんが、初期から幻視や睡眠時に突然叫ぶといった行動が出やすいのが特徴です。また抑うつ状態になりやすく、レビー小体型認知症の約5割に症状があるともいわれています。

脳血管性認知症

脳梗塞や脳出血などの脳卒中を起因とする脳血管性認知症。障害が起こった場所や範囲などによって症状は大きく変わりますが、脳卒中が起こるたび、段階的に悪化するのが特徴です。身体面での障害が大きいですが、行動・心理症状では全般的に不安や抑うつがでやすい傾向にあります。

前頭側頭型認知症・ピック病

ピック病などに起因する前頭側頭型認知症は、主に前頭葉・側頭葉前方に委縮が見られます。人格や社会性を司る部分に病変が起こるため、行動・心理症状では易怒性や感情失禁、多動など、人が変わったような印象を受ける症状が出やすいのが特徴です。

「行動・心理症状」を和らげる対応のポイント

「行動・心理症状」を和らげる対応のポイント

行動・心理症状は対応する介護者の負担も大きく、かつては「問題行動」と呼ばれることもありました。しかし、これらは全て介護者の目線。認知症のご本人にとっては「その場の環境に適応しよう」と模索した結果なのです。

症状の背景には、必ずご本人なりの理由があります。まずはご本人に寄り添い、その行動の背景にある「なぜ」に目を向けてみましょう。

以下に、行動・心理症状を緩和させる対応のポイントを挙げます。

  • 全ては認知症が引き起こしているということを介護者が理解する。
  • できるだけ環境を変えないようにし、症状悪化につながる混乱を防止する。
  • ご本人が今できることを失わないよう支援し、自己肯定感を高めるサポートをする。
  • ご本人のペースに合わせた対応で、 “その人らしさ” を尊重する。

認知症になると全てを忘れてしまうと思われがちですが、感情に関しては、末期でも強く・長く残るといわれています。感情の不安定さが行動・心理症状の悪化につながるので、ご本人の不安の原因を理解しながら、適切な対応を心がけましょう。

「行動・心理症状」に対する専門的な治療法は?

「行動・心理症状」に対する専門的な治療法は?

行動・心理症状は介護者の対応によって改善が期待できますが、専門職からのアプローチも行われています。その治療は主に薬物を使うものと、薬物を使わない非薬物療法の2つに分けられます。

薬物療法では、症状によって「意欲を高めたり、元気を出させたりする薬」や「気持ちを静めて、興奮状態を抑える薬」、「睡眠を促す薬」などが用いられます。一方、非薬物療法では専門職による回想法や運動療法、作業療法、音楽療法といったセラピーが挙げられます。

いずれも心の安定をはかることによって症状の改善を目指しており、認知症ご本人のQOL向上にも重要な役割を果たします。主治医と相談のうえ、適宜取り入れてみるのも手です。

まとめ

ひと口に認知症といっても、原因疾患や病状の進行度合いによってその症状は多種多様。とくに今回ご紹介した行動・心理症状は様々な要因によって症状が左右されるため、介護をしている当事者同士でもなかなか分かり合えないこともあるでしょう。

最も身近で介護しているのに悪者扱いされたり、徘徊や排泄に関わる問題では身体的・精神的な負担が大きかったりと、対応に苦慮することも少なくありませんよね。

しかし、介護者の心理状態はまるで鏡のようにご本人に映し出されることがあります。悪循環に陥る前に「全ては認知症によって引き起こされている」という原点に立ち返り、行動の背景に目を向けて冷静に対応しましょう。

良くも悪くも、行動・心理症状は周りの状況に左右されます。適切な対応のポイントをおさえ、認知症ご本人・介護者ともに過ごしやすい日々を目指しましょう。

参考資料】
● 国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)
「BPSDの解決につなげる各種評価法と、BPSDの包括的予防・治療指針の開発~笑顔で穏やかな生活を支えるポジティブケア」研究班
 『BPSDの定義、その症状と発症要因

認知症の「行動・心理症状」を理解しよう! 対応のコツもご紹介します

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この記事を書いた人

遠藤紗織のアバター 遠藤紗織 ライター

社会福祉士・介護福祉士の国家資格を保有するWEBライターとして、専門知識を活かした情報発信を得意とします。これまでに数多くの記事を執筆し、福祉分野の深い洞察とリアルな体験をもとに、読者の理解を深め、興味を引く記事作りを心掛けています。誰もが安心して生活できる社会を目指し、情報の提供を通じてその一助となれればと思います。

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