認知症で言葉がでないのはなぜ? 自宅でできるリハビリもご紹介!

認知症で言葉がでないのはなぜ? 自宅でできるリハビリもご紹介!
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認知症になると、言葉がでない症状が現れるのをご存知ですか?

「言葉がでない」と一言で言っても、

  • 言葉の意味は理解できるが、適切な単語を発せない
  • 喋ることはできるが、意味が通じない・理解できない
  • 物や人の名前が出てこない
  • 言葉を発しようとしても声が出ない・うまく言えない

など、原因によって様々なタイプがあります。

今回は、認知症の「言葉がでない」症状について詳しく見てみましょう。伝えたいことが伝えられない・わからないといったことが起こると、認知症のご本人・介護者ともに精神的負担が大きくなります。

今回は言葉がでないときの介護者の対応のコツや、リハビリのアイディアなども掲載しているのでチェックしてみてくださいね。症状への理解とコミュニケーションの工夫で、よりよい生活を目指しましょう。

目次

認知症になると「言葉がでない」症状がでる

認知症になると「言葉がでない」症状がでる

認知症になると、脳の機能低下によって言語機能に支障をきたし「話す・聞く・読む・書く」といった言語にまつわる一連の動作が困難になります。

認知症のタイプによって症状の進み方が異なりますが、一般的に初期は物の名前が思い出せなかったり、文字を読んだり、字(とくに漢字)を書いたりするのが難しいといった症状が現れます。

そして進行とともに語彙が減ったり、同じ言葉を繰り返したり、言葉の意味を理解できなくなったりする症状が現れ、最終的には言葉を全く発しない状態となります。

これらは認知機能の低下によって引き起こされる「失語」の状態で、認知症では避けられない「中核症状」の1つでもあります。

認知症の「失語」はどうして起こるの?

認知症の「失語」はどうして起こるの?

言語を司る中枢は、脳にある「ブローカ野」と「ウェルニッケ野」という2つの領域が知られています。

ブローカ野は言語表現に関与しており、「話す・書く」など意思決定された言語を言葉や文字にするために必要な処理を、ウェルニッケ野は言語理解に関与しており、聴覚情報から言語を理解するための処理をそれぞれ担当しています。

これらの言語中枢はお互いにつながっており、連携して処理を行うことで適切な言語の理解と表現をしています。

しかし、認知症の原因であるアルツハイマー病や脳卒中などによって脳が変性・損傷すると、言語中枢の働きが妨げられ、言葉がでない失語の症状が引き起こされます。損傷を受ける部位によって失語のタイプが異なるので、詳しく見てみましょう。

認知症で起こる失語の種類

認知症で起こる失語の種類

認知症で起こる失語には、ブローカ失語・ウェルニッケ失語・健忘性失語・全失語と、大きく分けて4つのタイプがあります。

「ブローカ失語(運動性失語)」

ブローカ失語は「言葉の理解はできるが、言葉を発することができない失語」で、別名「運動性失語」と呼ばれています。

言語を処理して音を作る領域が侵されるため、イメージを言葉にする過程で障害が起き、喉や唇、舌などを動かしてスムーズに言語を発することが困難になります。

「わわ・わた・わたし・は・・や・や・やややま・・やまだ・で・です」といったように流暢さに欠けるのが特徴で、言葉を発するためにはかなりの努力を要します。聞いた言葉を繰り返す「復唱」も苦手で、症状が重度になると発語が全くなくなることも少なくありません。

一方で、言葉を聞き取って意味を理解する力は比較的保たれるので、相手の話を聞いて内容を理解することはできます。また、読み書きは、かな文字より漢字の方が良好であることが多いと言われています。

会話の際はご本人の言葉をゆっくり待ったり、伝えやすいようカードを取り入れたりするのがおすすめです。

「ウェルニッケ失語(感覚性失語)」

ウェルニッケ失語は「言葉を流暢に発する事ができるが、言葉の意味が理解ができない失語」で、「感覚性失語」ともいわれています。

他人の言語を理解する働きを司る「ウェルニッケ野」に障害が起こるため、音を識別できない・言葉の意味を理解できないといったことが起こります。

話し方は一見すると流暢ですが、単語を別の単語と言い間違えたり、支離滅裂な文や造語が見られたりするのが特徴です。相手の言葉を理解することが難しいので、質問に答えたり復唱したりするのも困難です。

たとえば「今日は何日ですか?」という質問に対して、「その途中で雲が広がってバナナが私たちはその光景にまるで鳥がきた」といったように、質問に合った内容でない・単語や文自体が意味をなさない回答が目立ちます。

とくに、初期は口数の多い「多弁」も症状の1つで流暢によく話すため、障害の自覚に乏しいことも少なくありません。会話の際はゆっくり話したり、ジェスチャーを加えたりするなどコミュニケーション方法に工夫してみましょう。

「健忘性失語」

健忘性失語は、「あれ、この前のあれが…… 名前が思い出せないんだけど、ほら、あれ! 」や「誰だっけ、この前あったあの人! 」といったように、物や人の名前が出てこない「喚語困難」が特徴です。

「これ・それ・あれ・どれ」などの指示語が多くなるため回りくどい言い方になりますが、言葉の理解と復唱する能力に問題はありません

認知症ではとくに初期の症状として気になる方が多いですが、認知症でなくても年相応の症状として経験がある方もいらっしゃるのではないでしょうか。失語の中では軽度の症状で、コミュニケーションの妨げになることもほとんどありません。

しかし、ご本人は言葉がでない自覚があるので「このまま認知症がひどくなって、全て忘れてしまうのでは…… 」といった不安が大きくなりがちです。介護者は、こころのケアや症状を進行させないためのリハビリなどを提案するのもおすすめです。

「全失語」

全失語は、言葉を話す・話を理解する・復唱する・読む・書くのいずれの能力も重度に低下している状態です。完全に発語がなくなるか、あったとしても「あ、あー」や「ううー」など意味を持たない言葉になります。

認知症が重度まで進行した状態や、脳卒中や脳腫瘍が広範囲にまで及んでいる場合などに起こり、ブローカ野・ウェルニッケ野ともに侵されている状態です。

言葉によるコミュニケーションはほとんど困難ですが、目線やわずかな唇の動きなど、身近な介護者にはご本人の伝えたいことがわかる場合も少なくありません。それまでと変わらない声掛けと、やさしく触れるなどの非言語コミュニケーションを充実させましょう。

失語症以外の「言葉がでない」ケース

失語症以外の「言葉がでない」ケース

認知症の方の言葉がでない症状は、失語以外に「構音障害」や「失声症」が原因になっているケースもあります。これらは「失語」とは明確に区別されますが、認知症の方に起こりうる言葉がでない症状なので詳しく見てみましょう。

「構音障害」は脳血管性認知症で起こりうる

構音障害は、唇や喉、舌、声帯といった声を出すのに重要な役割を果たす部位に障害をきたし、うまく発声できなくなった状態を指します。

主に、脳梗塞や脳出血などの脳血管疾患や脳腫瘍などによって、脳が損傷することで起こります。これらの疾患は認知症の原因にもなっているため、脳血管性認知症の方が構音障害を起こすことも珍しくありません。

そのほか、レビー小体型認知症でも身体がこわばってスムーズに動けなくなる「パーキンソン症状」によって構音障害が起こることがあります。

構音障害は言葉への理解力は保たれますが、もともとの疾患の症状によっては理解するのに時間がかかる場合も考えられます。いずれも、わかりやすく短い言葉でゆっくり話す・急かさないといった対応を心がけましょう。

「失声症」はストレスが原因の場合も

失声症は、声帯を動かす神経が麻痺して声帯の振動が全くなくなり、言葉がでない症状が起こる言語障害です。強いストレスなどの精神的な原因のほか、神経障害が影響している場合もあります。

認知症の直接的な症状ではありませんが、認知症の方が何らかのストレスによって失声症を合併するケースもゼロではありません。「突然声が出なくなった」といった場合は、失声症を疑ってみましょう。

言葉が出ない人への対応のコツ〜話しかけるとき〜

言葉が出ない人への対応のコツ〜話しかけるとき〜

ここからは、言葉がでない認知症の方への対応のコツをご紹介します。まずは介護者が話しかけるシーンで重要なポイントをみてみましょう。

ゆっくり・はっきり話す

言葉がでない方の多くは、相手の言葉を理解するのに時間がかかります。ゆっくり・はっきり口を大きく動かし、聞き取りやすい言葉で伝えましょう。ポイントは文節ごとに区切ることです。

ただし、簡単な言葉を使おうとするあまり、子どもを相手にしているような話し方をしてしまうのはNGです。自尊心を傷つけることにつながりますので、注意しましょう。

短い言葉で話す

健常の方にとっては問題ない声掛けも、認知症の方にはスムーズに伝わりづらい場合があります。わかりやすい言葉に言い換えながら、1文を短く区切って伝えましょう。長くなりそうな場合は、1つの行動が終わるたびに、その都度要点を絞って手短に伝えるのがコツです。

ジェスチャーを加えて話す

認知症で言葉がでない方、とくに言葉の意味を捉えるのが難しい方には、ジェスチャーを加えて話すのが効果的です。手を広げて「大きい」を表す、「トイレ」の方向を指す、「食べる」マネを加えるといったように、視覚からイメージできるような声掛けを心がけましょう。

絵や写真を使って話す

言葉がでない認知症の方は、耳から入る単語が「何のことを言っているか」イメージするのが難しいケースが少なくありません。話の内容が伝わりやすいよう、対象物の絵や写真を用意しておくのも有効です。

日常的によく登場する「ベッド・メガネ・車・病院・手」などの写真や、「食事をする・トイレに行く・お風呂に入る・痛い」といった動作や状態をカードにしておきましょう。このカードは認知症の方が話すときにも重宝しますよ。

はい・いいえで答えられるように話す

認知症の方が言葉がでない場合も答えやすいよう、はい・いいえで答えられるような質問をするのも有効です。あらかじめご本人が選びそうな選択肢をいくつか用意しておきましょう。

「今夜は何食べたい?」といったように、回答が無限に考えられるオープン・クエスチョンだと言葉につまってしまうことがありますが、「焼き鮭はどう?」「お肉と魚、どちらがいい?」なら答えやすくなります。回答に選択肢があるクローズド・クエスチョンへの転換を心がけて対応しましょう。

言葉が出ない人への対応のコツ〜話を聞くとき〜

言葉が出ない人への対応のコツ〜話を聞くとき〜

ここからは、言葉がでない認知症の方の話を聞くときのコツをご紹介します。できるだけご本人と向き合い、目を合わせて聞くのがポイントです。

先回りしない

最も重要なことは、先回りせずに話を聞く姿勢です。ついつい「〇〇っていうこと?」と結果を急いでしまいがちですが、これではご本人の話したい気持ちを削いでしまいかねません。スムーズに話を進めるための手助けのつもりでもNGです。まずは話したい気持ちを尊重し、急かさず待ちましょう。

途中で口をはさまない

先回りしないことと同様に、途中で口を挟まないことも重要です。ついつい「あ、〇〇のことね! それなら〜」と続けてしまいたくなりますが、グッと我慢。最後まで聞く姿勢を大切にしましょう。聞き手が「話を待っていてくれる」という安心感は、信頼関係のベースにもなります。

最後に内容の確認をする

最後まで話を聞き終わったら、自分が聞き取った内容がご本人が意図するものと同じであるかどうか、確認しましょう。

より正確にやり取りできるだけでなく、ご本人にとっても「自分の言いたいことが伝わった」安心感につながるので、ぜひ取り入れてほしいステップです。「話を聞くだけ・伝えるだけ」ではない双方向のコミュニケーションを目指せるといいですね。

自宅で取り入れたい「失語症」のリハビリテーション

自宅で取り入れたい「失語症」のリハビリテーション

最後は、認知症の言葉がでない対策として自宅でできる「話す・聞く・読む・書く」のリハビリテーションをご紹介します。言語聴覚士などの専門職が行うものではないので、できる範囲で無理なく取り入れてみましょう。

「話す」ためのリハビリ

話す機能を衰えさせないためには、頭の中にある事柄を言葉にして表現する訓練が効果的です。物の名称を当てるクイズや、介護者が言ったことを繰り返す復唱などを取り入れてみましょう。

日常で何気なく行っている「こんにちは」「ありがとう」「いただきます」などのあいさつも効果的なので、欠かさず続けてみてください。

  • 馴染みのある歌をうたう
  • 本を見せながら「これは何でしょう?」と質問する
  • うさぎの真似をしながら「この動物は何?」と質問する

「聞く」ためのリハビリ

聞く力を保つには、音そのものを聞き取る力を高めるのに加え、言葉と意味の結びつきを促すのが重要です。介護者が言った言葉をカードの中から選んだり、2種類の単語を聞いて同じ音か違う音なのかを判断するゲームを取り入れたりしてみましょう。

  • “毛糸” を見せながら「これは何でしょう?」と質問するト
  • 「 “えんぴつ” と “えんとつ” 、文字を書くときに使うのはどちらでしょう?」と質問する

「読む」ためのリハビリ

読む力を衰えさせないためには、文字が持つ意味と名称・状態・動作をつなげる訓練が効果的。絵や物の名称をカードの中から選ぶ、簡単な文章の後半に続く適切な文末を選ぶといったゲームを取り入れてみましょう。

  • 「 “りんご” はどれでしょう?」と文字が書かれたカードを見せて質問する
  • 「 “今日の天気は 〜〇〇 だ” に続く正解のカードはどれでしょう?」と質問する

「書く」ためのリハビリ

書く力を維持するためには、手先の器用さだけでなく頭の中にある言葉を文字にする作業が重要です。毎日少しでも書く動作を取り入れてみましょう。

  • 短い文章を書き写す
  • 物の名称を漢字・ひらがな・カタカナで書く
  • 漢字に振り仮名を振る
  • 一行日記を書く
  • ニュースや出来ごとを箇条書きにする

まとめ

認知症になると、中核症状である「失語」が現れて言葉がでなくなります。

初期は物の名称が思い出せなくなる「健忘性失語」が目立ちますが、脳の変性が進行すると、言葉の意味がわからなくなったり、スムーズに言葉がでなくなったりするなど、徐々に意思疎通が難しくなっていきます。

また、脳血管性認知症やレビー小体型認知症では、言葉を発する器官への司令が侵されてうまく発音できなくなる「構音障害」が生じることがあり、一言で「言葉がでない」といってもその種類は様々。

原因によって症状の現れ方や進み方は様々なので、ご本人に合わせた対応を心がけましょう。

「伝えたいことがあるのに言葉がでない」ことは大変なストレスです。会話の方法を工夫することで状況が改善することもありますので、ご本人の自尊心を大切にしながら対応してみてください。

【参考資料】
● 桑名眼科脳神経クリニック
  『中核症状ー失語ー
  『レビー小体型認知症ー症状ー
● MSDマニュアル
  『失語
● コミュニティホーム白石
  『ブローカ失語について
  『ウェルニッケ失語について
● 北九州市
  『言語・聴覚障害の種類
● 大阪メンタルクリニック
  『失声失歩

認知症で言葉がでないのはなぜ? 自宅でできるリハビリもご紹介!

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この記事を書いた人

遠藤紗織のアバター 遠藤紗織 ライター

社会福祉士・介護福祉士の国家資格を保有するWEBライターとして、専門知識を活かした情報発信を得意とします。これまでに数多くの記事を執筆し、福祉分野の深い洞察とリアルな体験をもとに、読者の理解を深め、興味を引く記事作りを心掛けています。誰もが安心して生活できる社会を目指し、情報の提供を通じてその一助となれればと思います。

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