認知症は早期発見が重要! 予防のための基礎知識をご紹介します

認知症は早期発見が重要! 予防のための基礎知識をご紹介します
  • URLをコピーしました!

脳細胞の変性や死滅によって起こる進行性の疾患、認知症。原因の最多となっているアルツハイマー病では、脳の変性がゆっくりと進行するので、症状があらわれるまでに数年〜十数年、中には20年かかるケースもあるといわれています。

つまり、発症の10年以上前から、脳の中ではすでに異常が起こっているのです。

現代の医療では認知症の根本的な治療法が確立されていないので、このような段階で、いかに症状の進行を遅らせられるか、発症を食い止められるかといった治療が重要となります。

早ければ早いほど効果が高いことがわかっているので、ちょっとした異変を見逃さず、早期発見・早期治療に努めましょう。

今回は、認知症の早期発見のメリットや医療機関で用いられている検査、認知症の前段階であるMCIについて詳しくご紹介します。初期症状のチェックポイントや認知症を予防する習慣にも触れるので、気になる方はチェックしてみてくださいね。

目次

認知症は早期発見が大事! そのワケは?

認知症は脳の神経細胞が損傷したり死滅したりすることで、脳の認知機能が障害される進行性の疾患です。

一般的に、症状が軽い段階では物忘れなど日常の小さな違和感を感じる程度ですが、徐々に様々な症状があらわれ、日常生活に支障をきたすようになります。

現代の医療では根本的な治療が未だ確立されていませんが、早期に発見し、治療を開始することで症状の進行を遅らせることが期待できます。

反対に、症状が進行している段階の脳はすでに激しく損傷しているので、早期に治療を開始した場合ほどの効果が見込めません。認知症はいかに早い段階で発見し、治療に移るかが予後を大きく左右する分岐点となっているのです。

認知症予備軍「軽度認知障害(MCI)」とは?

早期発見・早期治療が重要な認知症ですが、実は「軽度認知障害(MCI:Mild Cognitive Impairment)」と呼ばれる認知症の前段階の状態があります。詳しく見てみましょう。

MCIってどういう状態?

MCIは、認知機能がやや低下している状態で、「認知症まではいかないが、健常ではない」状態を指します。厚生労働省が定義を公表しているので、見てみましょう。

1. 年齢や教育レベルの影響のみでは説明できない記憶障害が存在する。

2. 本人または家族による物忘れの訴えがある。

3. 全般的な認知機能は正常範囲である。

4. 日常生活動作は自立している。

5. 認知症ではない。

出典:厚生労働省 e-ヘルスネット

このように、MCIの主な症状は「物忘れ」です。認知症を発症した場合に比べて症状が軽いため、日常生活への影響はほとんどなく、本人も周囲の人も気づかない場合が少なくありません。

MCIは認知症に移行するリスク大!

MCIは数年後に認知症に移行するリスクが高いことも知られています。厚生労働省によると、認知症に移行するMCIは年間で10〜15%。これは健常者の4〜5倍危険性が高い状態ですので、注意が必要です。

しかし、全ての人がすぐに認知症に移行するわけではなく、MCIから健常に戻る場合もあります。「認知症予備軍」といわれているこの状態のうちに、食生活や運動習慣の改善、認知トレーニングを取り入れ、認知症予備軍を脱しましょう。

本人や家族、周りの方が異変を敏感に察知し、早め早めに発症を防ぐ手立てを取るのが重要です。

認知症を早期発見するための【検査】

では、認知症を早期発見するために、医療機関で用いられる検査にはどのようなものがあるのでしょうか。

ここでは代表的な認知症検査の「長谷川式認知症スケール」「MRI検査」「PET検査」の3つに加え、MCIやアルツハイマー病の発症リスクがわかる検査について詳しく見てみましょう。

「長谷川式認知症スケール」

「長谷川式認知症スケール」は、日本の医師・長谷川眞氏によって開発された日本最初の認知症の診断検査です。

「今日は何日ですか?」「ここはどこですか?」「青空はどんな色ですか?」などの簡単な問診や課題を用いて、言語や記憶、注意、思考、判断力などの認知機能について評価していきます。

検査時間が短く患者への負担が少ないことから、一般的な医療機関でも取り入れやすい検査です。とくにアルツハイマー型認知症に対して有効であるとされています。

「MRI検査」

脳の萎縮や梗塞や出血、腫瘍などの病変を詳細に診ることができる「MRI検査」。アルツハイマー型認知症で特徴的な海馬の萎縮も詳しく観察できるため、認知症の早期発見に有効だとされています。

検査には強力な磁場とラジオ波を使うため、被爆の心配がなく安全な点もメリットです。ただし、ペースメーカーや人工股関節などの金属を体内に持っている方は要注意。磁石に反応してしまうため、事前に医師の指示を仰ぎましょう。

また、検査は狭いトンネルのような装置に入って行うため、閉所恐怖症の方には苦痛となる場合もあります。やや時間もかかるので、検査前には丁寧な説明を行うなど個別の対応が重要です。

「PET検査」

脳内の血流やグルコース代謝量、アミロイドβタンパク質の蓄積状況などを診ることができるのが「PET検査」です。

脳細胞の機能低下や破壊を把握することができるため、認知症がどの程度進んでいるかを把握するときに用いられます。

脳内を3次元画像に変換できるため詳細な状態を把握できる一方で、放射性物質を使うことによる身体への影響も懸念されます。

そのため、PET検査を行うかどうかは慎重に検討する必要があり、MRI検査で事足りる症例よりも重症度が高い場合に用いられるのが一般的です。

「MCIスクリーニング検査」

「MCIスクリーニング検査」は、アルツハイマー病の前段階であるMCIのリスクをはかる血液検査です。

アルツハイマー病は、脳にアミロイドβタンパク質が蓄積することが原因の1つとされていますが、この検査ではそれらの異常物質の働きを弱める3つのタンパク質の量や働きなどを検査します。

自覚症状がないMCIのリスクを判定できるため、認知症の早期発見・早期治療に有効だとされています。

「APOE遺伝子検査」

「APOE遺伝子検査」は、口腔内から採取した唾液検体を用いてアルツハイマー病のリスク因子の1つであるAPOE遺伝子の変異を調べる検査です。

APOE遺伝子は脳内における脂質代謝に関わる遺伝子で、どの遺伝子タイプを持つかによって認知症の発症リスクを評価するものです。

ただし、その遺伝子タイプを持っていたからといって、必ずしもアルツハイマー病を発症するとは限りません。検査結果によっては精神的負担も少なくないため、受けるかどうかは慎重に判断する必要があります。

認知症は早期発見から早期治療が重要! どのような治療がある?

「治療」と聞くと一般的に薬を飲むことがイメージされますが、認知症がそれほど進行していない初期段階やMCIでは、投薬治療以外の方法も効果的です。

とくに、記憶力のトレーニングやコミュニティへの積極的な参加、適切な食事や運動指導といったアプローチを組み合わせることで、より高い効果が得られることも。

それぞれの症状に合わせた複合的なアプローチが受けられるよう、早期発見から早期治療の開始につなげましょう。

一方、投薬治療については、脳内の神経伝達物質のバランスを整え、症状を改善することを目的としているものがいくつかあります。

これらの薬剤も早めの投与が有効だといわれていますが、症状の進行を完全に止めるわけではなく、副作用もあるため、適切な診断と処方が重要です。気になる方は医療機関に相談してみましょう。

【認知症早期発見のチェックポイント30項目】

ここからは、認知症の早期発見に役立つチェック項目をご紹介します。ちょっとした物忘れや勘違いは誰にでもありますよね。しかし、もしかしたらそれが認知症の予兆かもしれない…… と心配になることはありませんか?

早い段階で異変に気がつけば、早期治療につなげることができます。どのような場合に注意するべきか、見てみましょう。

【もの忘れがひどい】

1. 人やものの名前が思い出せない
2. いつも探しものをしている
3. ものを置いた場所を忘れる
4. 食べたものを思い出せない
5. 新しいことが覚えられない

【時間や場所がわからなくなる】

6. 時間や季節がわからない
7. 近所で道に迷う
8. 家に帰れなくなる

【物ごとをスムーズに行うのが難しくなる】 

9. 料理の手順がわからない
10. 車の運転でヒヤッとすることが増えた
11. 簡単な計算ができない
12. 計画どおりに行動することができない
13. 買い物ができなくなった

【理解力が低下する】

14. 話のつじつまが合わないと指摘された
15. 人の話を理解できない
16. テレビの内容が理解できない
17. 本の内容を覚えていられない
18. お金の管理ができない

【性格が変化する】

19. 嘘をついてごまかすことが増えた
20. 頑固になった
21. 怒りっぽくなった

【不安感が強くなる】

22. わけもなく不安な気持ちになる
23. 自分の体調や記憶力に不安がある
24. いつも心がザワザワする感覚がある
25. 一人になるのがつらい

【意欲や興味がなくなる】

26. 気分が落ち込んでやる気が出ない
27. 趣味を楽しく感じられない
28. 人に会うのが億劫になる
29. 身だしなみがおろそかになる
30. やろうと思ったことを最後までできない

以上が認知症の初期症状の一部です。早期発見に役立ちますが、これらの症状があるからといって必ずしも認知症であるとは限りません。症状が気になる場合は、早めに専門医師の診断を受けましょう。

40〜50代から「脳の検査」を受けましょう

認知症の中でも最も多いアルツハイマー型認知症は、発症する約20年も前から原因物質であるアミロイドβタンパク質が脳内に溜まり、認知機能が少しずつ低下していくといわれています。

この小さな変化を見逃さないためには、40〜50代くらいから定期的な検査を行っていくことが重要です。

「脳ドック」は認知症早期発見に有効!

脳ドックは、脳の萎縮や病変を診るMRI検査や、脳内の代謝活動を測定するPET検査などを用いて、認知症のリスクや早期の異変を発見する総合的な検査です。

現在はAIを用いてMRI画像を解析し、海馬の体積を測定するシステムも開発されているため、定期的に脳の状態を可視化することで経年の変化を把握することができます。これらの情報は認知症の早期発見に非常に有効ですので、チェックしてみましょう。

AIにより海馬を測定!【Brain Life Imaging®】はこちら

ただし、脳ドックは病院によって検査内容や価格が異なったり、健康保険が適用されずに高額になったりする場合もあります。事前に医療費や保険の内容を確認するなど、情報を収集しましょう。

自宅で「認知機能テスト」を行うのもオススメ

認知症の早期発見や進行の把握、治療効果の評価に重要な役割を果たすのが「認知機能テスト」。

簡単な質問や課題を行うことで、言語機能や記憶力、空間認知力など、様々な認知機能の状態を総合的に評価できるので、認知症の病状把握や早期発見に役立てられてられています。

多くの医療機関で使われている代表的なものには、「MMSE(Mini-Mental State Examination:ミニメンタルステート検査)」や「MoCA(Montreal Cognitive Assessment)」などがありますが、現在は自宅で手軽にできるテストも開発されています。

定期的に認知症のリスク評価を行うことは自己管理にも役立つので、積極的に取り入れましょう。

簡易認知機能テスト【CQTest®】はこちら

認知症予防のために心がけたい【5つの習慣】

では、最後に認知症を予防するために心がけたい習慣をご紹介します。認知症の予備軍であるMCIの段階でこれらの項目に気をつけて生活することで、認知症の進行や発症を防ぐ効果が期待できます。

認知症に限らず、その他の生活習慣病の予防にもつながりますので、今一度ご自身の生活を振り返りながら見てみましょう。

① 質の良い「睡眠」で老廃物の排出を促す

アルツハイマー病の原因ともなっている異常物質、アミロイドβタンパク質やタウタンパク質は、睡眠不足によって濃度が上昇したり、除去が妨げられたりすることで蓄積されていくといわれています。

十分な睡眠はアルツハイマー病の予防に欠かせません。就寝前は明るい光を浴びすぎない、睡眠に適した衣類を選ぶ、部屋の温度を上げすぎないなどに注意し、質の良い睡眠を確保しましょう。

② バランスの良い「食事」でインスリン値を正常に保つ

近年の研究によると、高インスリン値は脳内のアミロイドβタンパク質の蓄積を促進することがわかっています。血中のインスリン濃度を正常に保つよう、血糖値を急激に上昇させない食生活を心がけましょう。

具体的には、野菜類や豆類などの低GI食品や食物繊維、たんぱく質、脂質を積極的にとるのが有効です。食べるときも、野菜や肉などを先に食べ、糖質の高い炭水化物は最後に食べるのがおすすめです。

③ 適度な「運動」で脳の血流を良くする

運動も認知症予防に有効です。とくに、アルツハイマー病になると記憶や空間認知を司る海馬が萎縮していきますが、運動によって海馬の神経細胞が増加することがわかっています。

とくに、ウォーキング、ジョギング、自転車、水泳などの有酸素運動や筋力トレーニングが有効です。有酸素運動は週に3〜4回×30分程度、筋力トレーニングは無理のない範囲で継続的に行いましょう。

④ 「人と関わる機会」を作って脳を活性化させる

仕事を定年退職したあとや、子どもが巣立ったあとは人とのコミュニケーションが少なくなりがちです。しかし、認知症の発症・進行には、ストレスや孤独感が大きく影響しているといわれています。

意識的に地域で行われるイベントやサークル活動に積極的に参加し、定期的に人と関わる機会を保ちましょう。人と会うことによる適度なストレスは、良い刺激となって脳を活性化してくれます。

⑤ 毎日楽しく過ごすために「趣味」を持つ

「楽しい」という感情には、脳内にドーパミンなどの神経伝達物質を分泌させ、脳を活性化させる作用があります。

また、そのような体験を重ねることで脳の神経回路が増強されることも報告されており、認知症の予防に非常に効果的です。

読書や音楽鑑賞、手芸といった一人でも楽しめる趣味をつくるほか、ウォーキングやカラオケを一緒に楽しめる仲間を見つけるのもおすすめです。

まとめ

日々進歩する認知症の診断技術。以前に比べると、かなり症状の軽い段階で認知症の診断がつくようになり、早期に治療を開始することが可能になってきました。

認知症の治療は脳の損傷が少ない初期の段階であれば、より高い効果が見込めますので、日常の中で少しでも気になることがあったら早めに受診すること、そして40代〜50代を過ぎたら定期的に脳の検査を受けることを心がけましょう。

重要なのは、認知症の前段階であるMCIの状態や、症状が進行していない初期段階で早期発見し、治療を開始することです。

質の良い睡眠や定期的な運動、バランスの良い食生活など、基本的な生活習慣の改善を図ることも効果的ですので、今一度ご自身の生活を振り返る機会をつくってみましょう。

【参考資料】
● 厚生労働省 e-ヘルスネット 『軽度認知障害(けいどにんちしょうがい)』
● 国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター もの忘れセンター 『認知症はじめの一歩 ーご本人、ご家族のための教室テキストー』
● 株式会社日本医学臨床検査研究所 『「MCIスクリーニング検査」「APOE遺伝子検査」』
● 一般社団法人日本老年医学会 『認知機能の評価法と認知症の診断』 

認知症は早期発見が重要! 予防のための基礎知識をご紹介します

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

遠藤紗織のアバター 遠藤紗織 ライター

社会福祉士・介護福祉士の国家資格を保有するWEBライターとして、専門知識を活かした情報発信を得意とします。これまでに数多くの記事を執筆し、福祉分野の深い洞察とリアルな体験をもとに、読者の理解を深め、興味を引く記事作りを心掛けています。誰もが安心して生活できる社会を目指し、情報の提供を通じてその一助となれればと思います。

目次