「認知症の人にやってはいけないことって何?」
「認知症の家族にどう対応すればいいのか把握して、お互いに少しでも穏やかに生活したい。」
このようなお悩みをお持ちではありませんか?
認知症の人と一緒に暮らす家族、または身近な人は、生活や介護に対する難しさや不安を感じている人が多いと思います。
パーソン・センタード・ケア(認知症をもつ人を一人の「人」として尊重し、その人の立場に立って考え、ケアを行おうとする認知症ケアの一つの考え方)によると、認知症の人にやってはいけないことは17つあり、その内容は以下のようになっています。
上記のような行動は、認知症の人の易怒性を助長したり、混乱させる原因になります。
認知症の症状を悪化させないためには、本人が安定して生活することが重要なので、ここで挙げた17のことは認知症の人にやらないように心がけましょう。
また、認知症の人と上手にお付き合いするためには、認知症の人にやってはいけないことに加えて、前後の接し方のポイントや、対応方法についても具体的に把握することでお互いに安定した関係性を結べます。
そこで本記事では、以下のことについてお伝えします。
この記事でわかること |
・認知症の人にやってはいけないこと17つ・認知症の人への接し方のポイント5つ・認知症の介護シーンでよくある困ったことへの対応方法6例 |
認知症の方と上手に接することは、認知症の方ご本人はもちろん、ご家族や身近な人の生活を穏やかにすることに繋がります。この記事が、認知症の方のご家族のお役に立てますように。ぜひ最後までご一読ください。
認知症の人にやってはいけない17のこと
パーソン・センタード・ケアが提唱するところによると、認知症の人に対してやってはいけないこととして、以下の17つのことが挙げられます。
認知症の症状の安定には、認知症の人本人が苦痛やストレスを感じず、少しでも落ち着いて生活できることが重要になります。本人と家族が少しでも穏やかに過ごせるように、認知症の人にやってはいけないことをしっかり把握していきましょう。
だます(欺く)
認知症の人をだましたり、欺くような行為はしてはいけません。つまり、一般論としてそうであるように、「嘘をつくのはよくない」ということです。
言い換えれば、「認知症の人だから嘘をついても大丈夫」という考えは、よくありません。
たとえば、ショートステイ中の認知症の人が「家に帰りたい」と言い出したとき、しばらく滞在しないといけないにも関わらず「明日息子さんが迎えにきますよ」などと嘘をついて認知症の人を落ち着かせようとする声かけがみられます。
これは「本当のことを言うと本人が混乱するのではないか」「とりあえず嘘を言ってその場を収めよう」といった考えからくる行動ですが、表面的に混乱を抑えることができても、本人の心配や不安に向き合うことにはなりません。
余計な混乱を招くことにもなりかねないので、騙したり欺くことはやめましょう。
できることをさせない
認知症の人ができることを奪うのはよくありません。
認知症の人は、認知機能の低下がある一方で、体で覚えた技術は忘れにくいと言われています。つまり、できることもたくさんあるのです。
できることをさせないことは、本人の能力を使わせないことと同じで、本人にとっては苦痛になり、場合によっては「意地悪をされている」のように受け止められてしまう場合もあります
例えば、認知症の人ができることを自分でしようとした時に、「私がやるから座っていて」のような声かけをするのではなく、「お願いします」「では一緒にやりましょうね」というような声かけができるといいですよね。
認知症ではない人と同じように、自分でできることは自分でしてもらう。その当たり前のことが大切なので、「代わりにやってあげる」のではなく、「やり遂げるお手伝いをする」といいでしょう。
子供扱いする
「認知症になると、子どもに戻る」という言葉を耳にしたことがあるかもしれませんが、認知症の人はできないことや理解できないことが増えるだけで、決して子どもに戻るわけではありません。
自尊心や感情があるので、「子どものような能力しかない」と思って接すると、ストレスや不満を与えかねません。認知症になり、たとえ記憶障害や運動障害があっても、一人の大人として接しましょう。
怖がらせる(脅す)
認知症の人を怖がらせたり、脅すような行為をしたり、状況を作ってはいけません。
認知症の人は、判断力や認知力が低下しているので、恐怖心を感じやすくなっています。たとえば、認知症の人が迷惑な行為をしてしまったとき、複数人で取り囲んで怒ることは、認知症の人にとっては非常に怖い状況です。
認知症の人は、そうではない人以上に恐怖を感じやすく、敏感です。特に、何かを注意する際は、気をつけて接しましょう。
区別する(レッテルを貼る)
認知症の人だからと区別したり、レッテルを貼るような行為はやってはいけません。「認知症だからわからない」や「認知症だからこれをやっても意味がない」などの発想をすることは区別に当たります。
認知症の症状は、人によって様々です。「認知症だから」という括りで対応を判断するのではなく、その人個人をみて物事を判断して対応するといいでしょう。
差別する
認知症の人を差別してはいけません。例えば「認知症の人が使ったものだから使いたくない」などの発想がそれに当たります。
このような考えは、接する際の言動に出ます。認知症の人に不満やストレスを与えることに繋がりかねないので、当たり前のことですが、差別の心は捨てましょう。
急がせる
認知症の人をせかしてはいけません。認知症の人は、自分のペースを崩されたくない、崩せない場合が多いため、混乱や不安を招きます。
たとえば、「次の人が待っているから早くして!」のような声かけはよくありません。急かさなくても円滑に進むように、余裕をもった行動を心がけるといいでしょう。
理解しようとしない
認知症の人の訴えをわかろうとしない行動や会話はしてはいけません。
例えば、「家に帰りたい」と言っているホームの入居者に対して、「そんなことよりご飯が冷めないうちに食べてしまいましょうね。」と返答するような行動、会話がそれに当たります。
「家に帰りたい」という訴えに寄り添うことなく別の会話で対応するのは、認知症の人をわかろうとしていない行為です。
まずは理解しようとする声かけをすると、認知症の人は安心します。認知症の人にとって大切なことに対して向き合う姿勢を見せましょう。
のけ者にする(仲間はずれ)
のけ者にする、仲間外れにするとは、決していじめのようなことを指しているわけではありません。
たとえば高齢の父親が認知症になったとき、認知症の父親の目の前で、娘2人が「今日お父さん歯磨きしたっけ?」「いや、まだしていないよ」といった会話をしてしまうことがあると思います。
本人の目の前で、本人を会話に入れずに本人のことについて話す。よく見られる光景ですが、これがこの場合の「のけ者にする」「仲間外れにする」ということに当たるのです。
目の前に認知症の父親がいる場合は、父も交えて「お父さん、今日歯磨きした?していないならそろそろしないとね」のように一緒に会話をするのがいいでしょう。
もの扱い
認知症の人をもの扱いしてはいけません。例えば、車椅子に乗っている人に対して、声かけをせずにいきなり移動を始めるような行為は、もの扱いしているのと同じです。
突然の状況変化に、認知症の人は戸惑い、不安を感じます。認知症の人だから声かけはいらない、説明はいらないということはありません。
無視する
認知症の人は、一見意味がないような言葉(「あーあーあー」など)を発したり、同じことを繰り返し言うようなことがありますが、それを無視してはいけません。
言葉をうまく発することができない人が、「あーあーあー」などの言葉を発している時は、誰かを呼んでいるなどの場合があるからです。
また、認知症の人は事実や事象を忘れても、感じたネガティブな感情はしっかり覚えていることがあり、無視されたことでマイナスの感情が残り続けることがあります。
忙しいと、ついつい「またか」や「たいした用でもないのに」といった気持ちになるかもしれませんが、無視せずに、しっかりと向き合って対応しましょう。
強制する(無理強いさせる)
認知症の人に物事を強制したり、無理強いしたりするのはやめましょう。認知症の人は、自分の意図に反することをするのが苦手な人が多いからです。
また、物事の強制は自尊心を傷つけることに繋がりかねません。たとえば、本人の意思とは関係なく、こちらの都合で入浴を促して、無理やり服を脱がすなどはもってのほかです。
介護において難しい場面もあるかもしれませんが、無理やり何かを強制するのは避けましょう。
後回しにする
認知症の人に呼び止められた時に、「また後でね」のように後回しにしてしまうことがあると思いますが、これはやってはいけない行為です。
私たちもそうですが、認知症の人も、自分の話をしっかり聞いてくれる相手に対して信頼感を持ちます。後回しにされると、「自分は受け入れられていない」といったネガティブな感情を持たれてしまうこともあります。
忙しい中で、ついつい後回しにしてしまう気持ちはわかりますが、ほんの少しでも時間をとって立ち止まると認知症の人も安心できます。後回しにする際も、まずは話だけでも聞くことができるといいですね。
非難する
認知症の人を非難してはいけません。
認知症の人は、判断力や認知力が低下しているので、「これはやっちゃだめ!」と強くいっても、恐怖心を抱かせるだけで、内容が伝わらないことがしばしばあります。恐怖心を抱かれると、事態が余計に悪化することも。
また、認知症の人の中には、大声や甲高い声が苦手な人も多くいるので、気をつけましょう。何かを注意する際は、強い口調で非難するのではなく、優しい口調で伝えた方が効果的と言えるでしょう。
途中でやめさせる
認知症の人がやっていることを途中でやめさせるのはよくありません。本人が納得できる場合もありますが、納得できないと混乱したり、不満を感じたりするからです。
たとえば認知症の人が誰と会話をしている時は、突然遮るのではなく、ひと段落するまで待ってあげるといいでしょう。
作業がうまくいっていなくて中断させたい場合には、自尊心を傷つけないように本人が納得いくまでやらせてあげられるといいですね。認知症の人は、実際にはできていないことでも、自分ではちゃんとできていると思っていることがあるからです。
できる限りやっていることを見守りたいですが、そうはいかない場合もあると思います。そのようなときは「やめて」などの相手を否定するのではなく、理由を説明しながら穏やかに声をかけましょう。
からかう
認知人の自尊心を傷つけるようなことは、絶対にしてはいけません。認知症の人の言動を面白がったり、からかったりする行為は、自尊心を傷つけることに直結します。
認知症の人は、些細なことでも「バカにされた」などと感じやすくなっている場合があり、こちらがそのようなつもりではなくても、からかわれたと感じられてしまうことも少なくありません。
ネガティブ感情は認知症の人の中に残りやすいものです。認知症の方と関わるときはとくに言動に気をつけましょう。
侮辱する
当たり前のことですが、認知症の人を侮辱してはいけません。認知症が進行しても、羞恥心やプライドが損なわれるわけではないからです。
しかし、介護が続くと、ストレスが溜まったり、苛立ちが募ったりすることもあるでしょう。侮辱するような言葉が勢いで出てきてしまうことがあるかもしれません。
しかし、それは状況を悪化させるだけにすぎず、双方にとってマイナスです。認知症の人との信頼関係も損なわれてしまいますので、辛い気持ちは本人にぶつけるのではなく、他に吐口を見つけましょう。
認知症の人への接し方のポイント5つ
ここまで認知症の人に “やってはいけない17のこと” をご紹介しましたが、それを踏まえて、認知症の人にはどのように接すれば良いのでしょうか?
認知症の人への接し方のポイントは、まとめると以下の5つです。
認知症の人への接し方のポイント5つ
- 嫌なことを強要しない
- 信頼関係を作る
- 孤独を感じさせない
- 本人のペースを大切にする
- プライドを傷つけないようにする
ポイントを押さえると、認知症の人が安定して過ごせるのはもちろんのこと、介護する家族や身近な人の生活が落ち着くことにつながるので、1つ1つ見ていきましょう。
嫌なことを強要しない
認知症の人への接し方で最も重要なのが、嫌なことを強要しないことです。
認知症の人は、自分が嫌だと感じることを強要されると、周辺症状が強く出る傾向にあります。周辺症状は、中核症状の二次的症状のことで、以下のようなものがあります。
逆に、認知症の人は、自分が好む行動や居心地がいい日常が続くと、周辺症状が強く出にくい傾向にあります。認知症の人の症状を悪化させないために、嫌なことを強要するのはやめましょう。
信頼関係を作る
認知症の人に信頼してもらえる関係性を作れると、日常生活をスムーズに送りやすくなります。
人は誰でもそうですが、知らない人、距離を感じている人がそばにいると、緊張したり不安になるもの。認知症の人は特にそのような傾向があるので、信頼関係を作るのは重要です。
普段から信頼関係をしっかり築いておくと、認知症の人はリラックスした状態で安定して過ごすことができます。症状悪化を少しでも緩やかにしたり、穏やかに日常を過ごすことが期待できるでしょう。
信頼関係をつくるには、認知症の人と接する際にやってはいけない17のことを意識するだけでなく、実践的な対応も重要です。「3.認知症の介護シーンであるよくある困ったことへの対応方法6例」を参考にしながら、より良い関係を築きましょう。
孤独を感じさせない
認知症の人は孤独が嫌いで、ひとりぼっちの状態になると不安やストレスを感じます。
孤独を感じることが日常になると、不安定になり、大声を出したり、ウロウロ歩き回ったり、暴力をふるったり、暴言を吐くなど、望ましくない行動につながります。
認知症の人が信頼できる人がすぐそばにいると感じられる環境をつくるとともに、一人ぼっちで長時間放置しないように心がけると、穏やかに過ごせるでしょう。
本人のペースを大切にする
認知症の人と接する際は、本人のペースを大切に考えましょう。
認知症の人は、自分のペースを乱されるのが苦手です。やってはいけないことでもお伝えしましたが、急がせたり、やっていることを途中で中断させたり、自分でできることをやらせないような行動は禁物です。
少し周りのペースと合わない場合でも、「大丈夫ですよ」と声をかけることで、安心して物事に取り組むことができますので、実践してみてください。
「こうしなきゃいけない」という感情を一旦置き、認知症の人ご本人を尊重して過ごすと、家族も意外と気持ちが楽に過ごせるかもしれません。
お互いに穏やかに過ごせるように、本人のペースに合わせて過ごしてみましょう。
プライドを傷つけないようにする
認知症の人は、怒られたり非難されたり否定されることが苦手。認知症の人のプライドを傷つけないように気をつけて接することは、穏やかに過ごすために大切なことです。
人は誰でもプライドを持っていますが、認知症の人も同じくプライドがあります。過去の栄光など、誇れることは忘れない傾向があるので、むしろプライドが高くなる場合もあります。
また、怒られたことや非難されたこと事態はすぐに忘れてしまっても、そのとき感じた感情は覚えていると言われています。
「プライドを傷つけられた」「屈辱的な気持ち」といったようなネガティブな感情は、認知症の人の中に残るので、感じさせない方がお互いのためです。「認知症だから」という意識をもたずに、相手のプライドを傷つけないように接するといいでしょう。
認知症の介護シーンでよくある困ったことへの対応方法6例
認知症の人の介護に苦労しているご家族は多くいます。日々、本当に大変だと思います。ここでは、少しでも認知症の人のご家族の心が軽くなるように、よくみられるケースについて、対応方法をご紹介します。
ここでご紹介するケースは、以下の6つのケースです。
- 「まだご飯を食べていない」と言われた
- 食べ物以外のものを口にするようになった
- 「〇〇がない」「〇〇が盗まれた」と言われた
- 大きな声を出したり、攻撃的になった
- 勝手に出かけようとする
- トイレの問題への対応方法
それぞれのケースについて、具体的な対応方法などをご紹介します。
「まだご飯を食べていない」と言われた
認知症でよくみられる状況として、「まだご飯を食べていない」と言われることがあります。
この時、以下のような対応は逆効果となります。
- すでに食べたことを説明する
- 今はご飯の時間ではないと説得する
- どうして覚えていないのかと叱る
では、なぜ説明や説得が逆効果になるのでしょうか? その答えは、「まだご飯を食べていない」という発言が出る原因にあります。この現象は、以下のようなことが原因だと考えられます。
- 直前の出来事を忘れてしまう
- 脳の機能が落ちていて、満腹感を感じづらい
記憶に残っていないことや実感できていないことについて説得したり叱っても、全く意味がありません。それどころか、「なんでご飯をくれないのだろう」「この人は私に意地悪をしている」と感じられてしまします。
そのため、対応方法は以下のように行うと良いでしょう。
「まだご飯を食べていない」と言われたときの対応方法
- 「まだご飯の準備中だから、これを食べておいてね」とフルーツなどの軽食を出す
- 「まだ食べていない」と言われたときのために、あらかじめ1食を2回分に分けて提供する
- 自分で探して食べようとするときは、すぐ見つけられるところに軽い食べ物を置いておく
- 認知症の人が自分で食べ物を探せる場合は、冷蔵庫を漁るような状況を避けるために、簡単に見つけられるところに軽い食べ物をおいておく
繰り返しになりますが、叱ることや説得することは意味がなく、介護する側はどんどん疲れてしまいます。食べる量を調節しつつ、「まだ食べていない」と言われたら食べ物を提供して対応しましょう。
食べ物以外のものを口にするようになった
食べ物以外のものを口にすることを「異食行動」と呼び、これは認知症が進んだ人にみられる症状です。
認知症の人に異食行動がみられる原因には、以下のようなものがあります。
- 食べ物とそれ以外のものの区別がつかなくなる
- 脳がおかされ満腹感を感じなくなる
- 食欲の抑制が効かなくなる
- 味覚障害が出現する
- 寂しさを解消しようとして出現する場合もある
上記のような理由から、何か刺激を求めて何でも口に運んでしまうことで起こるのが異食行動です。
異食行動への対応方法には、以下のようなものがあります。
食べ物以外のものを口にするようになったときの対応方法
- 危険なものを手が届かない場所にしまう
- 危険な場所には鍵をかける
- お菓子などを用意して、こちらの方が美味しいよと誘導する
- 口寂しくならないように間食を増やす(そのために3食の食事の量を調整する)
特に危険なのは、ガラス、ボタン電池、薬や洗剤などを食べてしまうことです。万が一食べてしまった場合は、すぐに医療機関を受診しましょう。
また、異食を見つけた際の対応として、注意しなければいけないことがあります。
それは、異食を見つけても、すぐにでも口の中からものを取り出そうとしたり、無理やり口の中に手を入れたり、口を開けさせたりしないことです。
認知症の人は、大人です。大人の力で噛まれてしまうと大怪我をすることがあり、大変危険です。対処する際は、十分に注意してください。
「〇〇がない」「〇〇が盗まれた」と言われた
ある日突然、「〇〇がない」「〇〇が盗まれた」と言い出すことは、認知症ではよくみられる症状です。「盗まれた!」と言われると、家族は身に覚えがないことに驚くとともに、とても悲しい気持ちになってしまいますよね。
特に盗まれたと勘違いをする場合は、一番身近な人に取られたと矛先が向くことが多いので、憤りを感じたり、ひどくショックを受けるのは当然です。
しかし、このとき「置き忘れただけでしょ」「元々そんなものないよ」「自分が失くしたんでしょ」と言って叱るのは逆効果。
それどころか、「私が困っているのに、どうして怒るの?」「この人は本当に盗んでいて話題にしたくないから怒っているんだ」とさらに悪い妄想が膨らみかねません。
「〇〇がない」「〇〇が盗まれた」と混乱しているとき、認知症の人は以下のような状況にあります。
- 妄想している
- パニックになっている
- 興奮状態にある
- 正常な判断ができなくなっている
- 不安感や喪失感を誰かのせいにしたい
- 記憶障害を起こしている
- 思考力が低下している
つまり、状況を否定するようなことを言っても通じない状況である可能性が高いです。そのため、対応方法は以下のように行うと良いでしょう。
「〇〇がない」「〇〇が盗まれた」と言われたときの対応方法
- 「それは大変!一緒に探そう!」と共感して一緒に探す
- 「盗っていない」と否定したいところだけど、肯定も否定もせず共感する
- 落ち着いて話を聞く
- 一緒に探しながら好きなテレビ番組や食事の話など、全然別の話をする
- 見つかった場合は「よかったね」など肯定的な声かけをする
- 理解がある他の人を呼び、1対1にならないようにする
上記のような対応は、疑われた本人にとっては簡単なことではありません。特に初めてこのような状況に遭遇したときは、悲しいし悔しいし、ショックでとても冷静ではいられないですよね。
しかし、ここは感情をグッとこらえ、「事実をわかってもらいたい」という気持ちを一旦捨てましょう。分かってもらいたいとこちらが訴えれば訴えるほど、逆効果になります。
また、一緒に探す際は、すぐに見つけてしまったり、疑われた人が見つけるのはあまり良くありません。「やっぱりこの人知っていたんだ」などと、新たな妄想を引き出すことになるかもしれません。
探す際は、できるだけ自分で探させる。見つける際は本人が見つけられるように誘導するのがコツです。
一番身近で最も信頼している人に向けられやすいこの症状。分かっていても、心がついていかなかったり、こちらがおかしくなりそうと感じる人もいると思います。
そのような場合は無理をせず、専門機関に相談したり、自分以外の家族に対応してもらうなど、向き合う以外の選択肢を取ることも視野に入れて対策しましょう。
大声を出したり、攻撃的になった
認知症の人が大声を出したり、攻撃的になったりすると、近所の目が気になったり、場合によっては介護施設の利用を断られたりするので、家族はとても困ってしまうものです。
認知症の人が大声を出したり、攻撃的になったりする原因には、以下のようなものがあります。
- レム睡眠行動障害
- 不安感がある
- 自分の考えをうまく伝えられない
- 悲しみを感じている
- 怒りを感じている
- せん妄や妄想
- 幻視や幻覚
特にレム睡眠行動障害には、夢の中で行っているはずのことを現実でも行ってしまう症状があります。睡眠中に叫んだりする場合はこれが原因の可能性が高いと言えます。
そのため、認知症の人が大声を出したり、攻撃的になった場合、以下のように対応するのが良いでしょう。
大声を出したり、攻撃的になったりしたときの対応方法
- やってはいけない17のことは、易怒性を助長するのでしないようにする
- 叫ぶタイミングなどで、叫んでいる理由を特定する
- 薬を処方してもらう(向精神薬など)
大声を出すような症状がある時は、まずは原因がどれなのかについて観察します。理由が特定できたら、その原因に応じて薬が効果的な場合が多くあるので、医療機関に相談して薬を処方してもらいましょう。
無理やり抑制したり、静かにするように叱ったり、ましてや拘束するようなことは逆効果なので、しないようにしましょう。
勝手にでかけようとする
勝手に出かけようとする、つまり徘徊は、社会問題にもなっている認知症の症状です。徘徊の原因には、以下のようなものがあります。
- 今いる場所が自分にとって馴染みのない環境である
- 自分にとって居心地の悪い環境にいる
- 今いるところに違和感を感じていて、安心できる場所を求めている
上記のような理由から、徘徊する人は生まれ育った家や以前勤めていた会社など、自分の居場所を求めるなど、何かしらの目的をもってこっそり家を出ます。
徘徊では邪魔されないようにこっそり家を出るので、抑制されればされるほど、なにが何でも出かけようとするようになります。
徘徊の大きな問題点は、本人は目的を持って家をでますが、記憶障害などから目的地に辿り着けなかったり、本来の目的を忘れてしまうことです。
現在地がわからなくなり、家に帰る道もわからなくなり、それどころか自分が何をしているのかわからなくなり、そのままどこか遠方へ行ってしまうこともあります。
そのため、徘徊する人に対して、以下のように対応するのが良いでしょう。
勝手に出かけようとするときの対応方法
- 出かけるのを見つけたら、「送りますよ」と声をかけ一緒に歩く
- 洋服に連絡先などを縫い付けておく
- 事前に本人が行きたい場所、帰りたい場所など徘徊の目的となりそうな場所をリサーチしておく
説得することは、認知症の人には逆効果です。また徘徊を繰り返すと、ベットに縛り付けたくなったり、部屋に閉じ込めておきたくなるかもしれませんが、これも逆効果です。それどころか、暴力的になったり、ますます症状がひどくなることもあります。
万が一勝手に出かけてしまって行方がわからなくなった場合は、警察に届けましょう。また、厚生労働省のホームページには、行方がわからない認知症高齢者等の情報がありますので、確認してみてください。
トイレの問題への対応方法
トイレ問題に頭を悩ませている家族は多いと思います。トイレ問題に対しては、本人のプライドを傷つけないように対応することが大切です。
トイレの問題と対応方法をまとめました。
問題の内容 | 対応方法 |
排泄を失敗する | おむつやポータブルトイレを活用する |
失敗時に汚れた下着を隠す | 指摘せず、そっと片付ける |
トイレがわからない | トイレの前にトイレと張り紙をしたり、自室からトイレまでの道順を張り紙で示す |
異常に頻繁にトイレにいく | 医療機関に相談し、薬を処方してもらう |
トイレに行くのを拒否される | ・まずは本人の意思を尊重する・トイレの場所がわからず拒否している場合もあるので、一緒に行ってあげる・トイレに好きな写真や絵を貼るのも効果的 |
トイレの問題は、本人の自尊心と密接に関係しています。怒られることや失敗が苦手な認知症の人にとって、トイレに嫌な印象がついてしまい、それが悪循環に繋がっている場合もあります。
まずは本人の意思に寄り添い、焦らずに解決していくといいでしょう。
トイレの問題の解決法として、おむつの使用がありますが、本人の自尊心が傷つくし、家族の負担も増えるので、最終手段と考えたほうがいいでしょう。まずはトイレでの排泄を基本と考え、ポータブルトイレの活用なども検討してみましょう。
まとめ
本記事では、認知症の人にやってはいけない17のこと、認知症の人への接し方のポイント5つ、ケース別認知症の人への対応方法についてご紹介しました。
最後に、認知症の人にやってはいけないことをおさらいしておきましょう。
本記事が、あなたと認知症の人の穏やかな日常のお役に立てると幸いです。