「認知症の人がお酒をやめないと、症状が悪化してしまうのか知りたい」
「認知症とお酒には、どんな関係があるのだろう」
と疑問に感じている方もおられるかもしれません。
認知症とは、脳の病気や障害などにより、日常生活に支障が出てしまう病気です。代表的なものに、アルツハイマー型や脳血管性があります。あまり知られていませんが、認知症の中にはアルコール摂取が引き起こすものもあるのです。
記憶力が低下したり、自分のいる場所が分からなくなるなどの症状が見られることがあります。大量の飲酒を続けるなど、誤った対応をしてしまうと症状を悪化させてしまう危険性もあります。
そこで今回は、飲酒が引き起こすアルコール性認知症の症状や対処法について詳しく解説します。かかりつけ医へ相談することが重要ですが、病院受診が難しい場合の相談先についても紹介しています。
アルコール性認知症に興味をお持ちの方は、ぜひ最後までお読みください。
そもそも認知症とはどんな病気?
認知症とは、脳の病気や障害などにより、認知機能が低下し生活に支障が出てしまう病気のことです。
主な種類と症状は、以下の通りです。
アルツハイマー型認知症
認知症で最も多く、全体の約70%を占めています。初期症状は、もの忘れが見られます。進行すると「話が通じにくい」「ご飯の食べ方や服の着方を忘れる」などが目立つことも。
血管性認知症
全体の20%を占めます。脳梗塞や脳出血など脳血管障害が原因です。マヒや言語障害が見られることが多くある。
レビー小体型認知症
全体の約4%の割合で見られます。実際にはないものが見える幻視や、パーキンソン病のように体を動かしにくくなる症状が特徴です。
前頭側頭型認知症
全体の1%の割合です。万引きなどの反社会的な行動や、言語の障害が見られるのが特徴。
認知症について詳しく知りたい方は、こちらをご覧ください。
お酒が誘発する「アルコール性認知症」は、全体の約4%を占めています。詳しい症状については、後ほど詳しく紹介します。
認知症の人がお酒をやめないと症状が悪化する?
ここでは、お酒と認知症の関係について紹介します。
具体的には、
- お酒は脳に影響を与える
- 適量なら認知症を予防できる?
- 多量飲酒が原因の「アルコール性認知症」
の3つです。それでは、詳しく解説していきます。
お酒は脳に影響を与える
アルコールは、脳に影響を与えることが報告されています。特に長期間にわたり、大量にお酒を飲むことは危険です。
大量の飲酒によって、脳が小さくなる「脳萎縮」が高い割合でみられると言われているからです。そして飲酒量が増えれば増えるほど、脳が萎縮するという報告もあります。
一方、アルコール摂取によって萎縮した脳は、断酒することにより改善することも分かってきました。
適量なら認知症を予防できる?
「適量のアルコールは、認知症を予防する」という調査結果があります。以下のグラフは、「まったくお酒を飲まない人が認知症になるリスクを1」とした場合、お酒を飲む人のリスクがどれくらいかを示しています。
≪一週間あたりの飲酒量と認知症の危険性≫ ※350mLの缶ビールを「1本」とカウント
【参考】松下 幸生“厚生労働省 e-ヘルスネット アルコールと認知症”
上のグラフから、以下のことが分かります。
- 週に缶ビールを1~6本飲んでいる人は、認知症になる危険性が最も低い
- 週7本以上飲むと、飲まない人に比べてリスクが高くなる
- 週14本以上になると、飲まない人に比べてリスクは2倍以上になる
アルコールは脳に影響を与えますが、「適度に」摂取すると、認知症のリスクを軽減することが調査結果により分かりました。
大量飲酒が原因の「アルコール性認知症」
アルコールを大量に摂取することで、引き起こされるのが「アルコール性認知症」。長期間、大量の飲酒を続けると、脳が小さくなる「脳萎縮」が起こります。
脳萎縮では、ものごとを判断する「前頭葉」と呼ばれる部分が小さくなります。そして正常な判断ができなくなり、「記憶力の低下」や「怒りっぽくなる」などの症状が現れるのです。
またアルコール性認知症は、年齢に関わらず発症するのも特徴。若い方であっても、長期間の大量飲酒はアルコール性認知症を引き起こします。
お酒が誘発するアルコール性認知症! その症状とは?
ここでは、お酒が誘発するアルコール性認知症の症状について4つ紹介します。
具体的には、
- 日時や場所が分からなくなる(見当識障害)
- 注意力や記憶力が低下する
- 作り話をする(作話)
- 手の震えや歩行時のふらつき
の4つです。
それでは、詳しく解説していきます。
日時や場所が分からなくなる(見当識障害)
「今、何時なのか」「ここがどこなのか」分からなくなることを、見当識障害と呼びます。認知症になると、ほとんどの人に見当識障害が見られます。
症状が進行すると、時間だけでなく季節が分からなくなることも。真夏に分厚いセーターを身につけるなど、理解しにくい行動につながる場合もあるのです。
また近所に散歩に出かけたまま道に迷ってしまい、自宅に戻れずパトカーに乗せてもらって帰ってきたなどの事例もあります。
注意力や記憶力が低下する
注意力や記憶力の低下も、認知症によく見られる症状です。ものごとに集中できず、ぼんやりしてしまいます。テレビをつけていても、見ているのかどうか分からない状態です。
また、つい最近のできごとを忘れてしまうほど記憶力が低下することも。食事を食べたのに、「まだ食べていない」と主張するようなケースです。
通常の物忘れであれば、ヒントがあれば思い出せます。しかし認知症の場合は、「食べた行為そのもの」を忘れてしまうため、決して思い出せません。
作り話をする(作話)
作り話(作話)もよく見られます。ただし認知症の作話については、本人はウソをついているつもりがないのが特徴。
抜け落ちた記憶のつじつまを合わせようとしている場合が多いと言われています。また、昔のエピソードが残っていて作話の土台になることもあるようです。
例えば、
- 自分が、近所の人から嫌がらせを受けている
- 泥棒が家に入ってきて、財布を盗まれた
- 家族がご飯を食べさせてくれない
などです。
話の筋が通っているケースも多く、事情を知らない人が聞いて信じてしまうこともあります。
手の震えや歩行時のふらつき
自分の意思に関わらず手が震えます。また歩行時にふらつくことがあり、転倒のリスクが高い状態です。ふらつきがひどい場合は、壁や家具などにつかまらないと歩行できないこともあります。
また精神的に自分をコントロールできず、人に暴力を振るうことも。
お酒が原因のアルコール性認知症の対処法は?
ここでは、アルコール性認知症の対処法について4つ紹介します。
具体的には、
- お酒を控える
- 栄養バランスをとる
- 運動を心掛ける
- 薬物治療をする
の4つです。
それでは詳しく解説していきます。
お酒を控える
アルコール性認知症の原因は、長期間にわたる多量飲酒です。お酒を控えることで、脳萎縮を改善できる可能性があります。
しかし飲酒習慣のある人は、短期間でお酒を止めることは困難なケースも。アルコール依存症の治療では、気長に関わることが必要とされています。
少しずつアルコール摂取量を減らしていくのもよいでしょう。1週間に缶ビール1〜6本程度であれば、認知症予防の効果があるとの調査結果もあります。
まずは上記のように飲酒量をコントロールすれば、脳萎縮を改善できる可能性があります。
栄養バランスをとる
アルコールを大量に摂取した場合、脳はビタミンB1や葉酸などの栄養素が不足する傾向にあります。
以下に、ビタミンB1や葉酸を多く含む食品を紹介します。
- 焼きのり
- わかめ
- 豆類
- 豚肉(ヒレ・モモ)
- 魚介類
- しじみ・あさり
- ごま
- 大豆
また厚生労働省は、「何を」「どれだけ」食べたらよいかの指標を示しています。栄養バランスのとれた食事の参考にしてみてください。
【参考】“大久保 公美,武見 ゆかり”厚生労働省 食事バランスガイド(基本編)
運動を心掛ける
適度に運動を行うことで、規則正しい生活を送れます。日中、横になっている時間が長かったり、夜遅くまで起きているとアルコールに手を出してしまうケースも。
水泳やウォーキング、フィットネスジムなど何でも構いません。高齢者の方なら、リハビリ型デイサービスに通うのもよいでしょう。
体を動かすことで、気分もリフレッシュ。食欲も増進します。適度な運動は、健康な生活につながるのです。
薬物治療をする
病院を受診し、薬物による治療を行います。多量の飲酒を続けた人が、急にお酒をやめると「手が震える」「不安な気持ちになる」「大量に汗をかく」などの症状が見られることも。
具体的なアプローチとしては、まず病院を受診し、医師の指示により薬物治療を開始する。治療のひとつに、飲酒後に不快感を覚える薬を服用する方法があります。そして心理的に飲酒への欲求を断念させていくのです。
ただし薬物治療だけで、断酒はできません。家族や人とのつながりも重要です。断酒を目指す人や、経験者などで構成される「断酒会」などの自助グループへの参加なども有効な手段です。
アルコール性認知症でお酒がやめられない場合の相談先は?
お酒がやめられない場合は、まずかかりつけ医に相談しましょう。かかりつけ医がいない、病院受診は本人が拒否するなどのケースも考えられます。
そんな時は、最寄りの「地域包括支援センター」への相談をおすすめします。地域包括支援センターは、公的な機関であり相談は無料。認知症や介護など、福祉に関する相談が可能です。介護認定に必要な手続きや、ケアマネジャーの紹介なども行ってくれます。
まとめ
認知症は、脳の病気や障害が原因で、日常生活に支障が出てしまう病気です。長期間にわたる大量飲酒は、脳が小さくなってしまう「脳萎縮」を引き起こします。
そして、お酒が原因の「アルコール性認知症」を誘発することがあるのです。主な症状は、日時や場所が分からなくなる「見当識障害」や記憶力の低下。自分をコントロールできず、周囲に攻撃的になることもあります。
対処法としては、お酒を控えることが一番です。お酒を控えると、脳萎縮が改善されることもあります。他にも栄養バランスを整えたり、適度な運動をするのも有効です。
認知症や介護のことで、ひとりで抱え込むのは絶対にやめましょう。かかりつけ医に相談し、今後の治療方針や適切な対応について決定することが必要です。
また病院受診を本人が拒否する場合は、地域包括支援センターへ相談します。介護のことや認知症のことなど、無料相談が可能です。この記事をお読みになり、アルコール性認知症について理解し適切に対応される際の参考になれば幸いです。