認知症が進行すると最後はどうなる? 準備しておきたい3つのこと

認知症が進行すると最後はどうなる? 準備しておきたい3つのこと
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ご本人やご家族が認知症だと診断されたとき、まず気になるのは「どのような経過をたどって、どのような最後を迎えるのか?」ではないでしょうか。

「認知症の余命って短いの?」
「最後は苦しいの?」

このように不安に思われている方も少なくないと思います。

残念ながら認知症は今の医学では完治が見込めない疾患です。しかし、だからといって闇雲に恐れる必要はありません。

正しい知識を身につけ、人生を最後まで “自分らしく” 過ごすために準備しておくことで、ご本人にとってもご家族にとってもよりよい暮らしをつくっていくことはできます。

今回は認知症がどのように経過し、最後にどのような状態を迎えるのか、起こりうる症状や今からやっておきたいことなどを詳しくご紹介します。先が見えない不安は早いうちに解決しておきましょう。

目次

認知症は「寿命」に影響するの?

認知症は「寿命」に影響するの?

まずは、とくに気になる認知症と寿命の関係についてみてみましょう。認知症が原因で寿命が縮むことはあるのでしょうか?

認知症の余命はどれくらい?

認知症の方の余命については先行研究が数多くありますが、発症年齢や認知症のタイプ、性別など様々な要素が影響するため、なかなか一概にはいえません。

海外で行われた研究によると、発症からの生命予後の中央値は3〜12年。かなり幅が広いですが、多くは7〜10年とのことで、このあたりを平均の余命とされることが多いようです。

ちなみに日本では、公益社団法人「認知症の人と家族の会」の副代表理事・杉山孝博氏が「認知症高齢者グループの4年後の死亡率は83.2%で、正常高齢者グループの28.4%と較べると約2.5倍になっていた」とのデータを挙げ、「看てあげられる期間は短いのです」と語っています。

一概にはいえないとはいえ、認知症の方は健常な高齢者に比べると余命が短い傾向にあるというデータが多いようです。

直接の死因は「肺炎」が多い

では、実際に認知症の方はどのような最後を迎えることが多いのでしょうか?

日本において、認知症の方の死因の多くは「肺炎」と「衰弱」が占めています。肺炎は風邪などの感染症から発展するケースのほかに、嚥下機能の低下で誤嚥性肺炎を起こすケースなどがあります。

これらは認知症を含む複合的な要因によって起こっていると考えられますが、実際に死因として記載されるのは直接的な原因となった「肺炎」となります。

同じように、徘徊による不慮の事故や認知症の進行による食欲不振や寝たきりの状態からの衰弱や老衰で亡くなった場合も、「認知症が原因で死亡した」とはなりません。

一方、イギリスやカナダなどでは、認知症に関連して起こった死を「認知症による死」としてカウントする国も出てきたようです。

日本ではまだこのルールが採用されていないので「認知症で死亡する」ことは少ないように見えますが、認知症による死亡リスクは明らかに増大しているといえるでしょう。

認知症はどのように経過していくの?

認知症はどのように経過していくの?

では、認知症はどのような経過をたどっていくのでしょうか? 認知症の進行度別に「前段階・初期・中期・末期」に分けて見てみましょう。

① 前段階(軽度認知障害)

認知症には、認知症と診断される前の「軽度認知障害」(MCI:Mild Cognitive Impairment)と呼ばれる時期があります。この時期は健常と認知症の中間のような状態であり、記憶力や注意力などの認知機能に低下がみられるものの、日常生活に支障をきたすほどではないとされています。

② 初期

認知症の症状があらわれ始めると、まずは「昔のことはよく覚えているのに、ついさっきのことが思い出せない」といった短期記憶の障害が目立つようになります。

そのほか、料理がスムーズにできないといった「実行機能障害」や、今日が何日なのかわからないといった「見当識障害」も起こるため、生活の一部で介護者のサポートが必要になります。

③ 中期

認知機能の低下がさらに進行すると食事した直後に「食事はまだか」と言ったり、自宅でも自分のいる場所がわからなくなったり、今までできていた日常動作ができなくなる「失行」があらわれたりします。

この時期は徘徊や失禁などの「行動・心理症状」が起こりやすく、自立した生活を送るのが難しくなります。介護者の負担も大きい時期といえるでしょう。

④ 末期

認知症が重度になると、脳の機能低下が認知機能だけでなく運動機能にも及ぶようになります。小刻みな歩行や前傾姿勢などが見られるようになり、徐々に立ったり座ったりの姿勢も難しくなって寝たきりの状態へと移行していきます。

この頃になると表情が乏しくなってコミュニケーションがとれなくなるほか、食事や排泄など生活の全てで24時間通しての介助が必要となります。

認知症の最後はどうなるの?

認知症の最後はどうなるの?

では、実際に認知症の方は最後にどのような状態を迎えるのでしょうか? 末期に起こりがちな症状や状態を見てみましょう。

意思疎通が難しくなる

認知症が重度になるとご本人からの発語はほとんどなくなり、意思疎通が難しくなります。身近で介護している家族や親しい人の認識もできなくなるため、「何もわからなくなってしまった」と感じられることも少なくないでしょう。

しかし、相手の表情や声色、態度や身振り手振りなどの非言語コミュニケーションは比較的最後まで感情に影響を及ぼすといわれています。ご本人が安心できるよう、スキンシップなどを積極的に取り入れて、あたたかい雰囲気づくりを目指しましょう。

寝たきりになる

認知症が重度になるとほとんど寝たきりの状態となり、自分の意思で身体を動かすのが困難になります。食事や排泄だけでなく、寝返りをうつことにも介助が必要となるでしょう。

このような状態でとくに気をつけたいのが、褥瘡(じょくそう)です。褥瘡は体重で圧迫されている場所の血流が滞り、皮膚の一部がただれたり、傷ができたりしてしまう症状です。

ひどくなると骨や筋肉、腱が見えるほど深くなるケースもあるため、関節や臀部など一点に圧がかからないような体位の工夫と、こまめな寝返りの介助(体位交換)が必須となります。

栄養状態が悪かったり、皮膚が貧弱になっていたりするとさらに褥瘡のリスクが高まりますので、十分注意しましょう。

食事がとれなくなる

症状が進行すると、最後は食事がとれなくなります。

これは認知機能の低下によって食べる動作自体ができなくなるほか、嚥下機能の低下によって飲み込めなくなることなどが原因で起こります。こうなると衰弱が進み、余計に食べられなくなる悪循環に陥ります。

また、急に食べられなくなるケースとして感染症などの急性の疾患も挙げられます。家族としては「食べなければ死んでしまう!」と焦ってしまいがちですが、無理に食べさせようとすることで誤嚥性肺炎を起こすことも少なくありません。

いつか訪れる「食べられなくなったとき」にどう対応するか、あらかじめ考えておくことが重要です。

排泄が少なくなる

食事量の減少に伴って起こるのが、排泄回数・量の減少です。食べる量や飲む量が少なくなれば必然的に排泄回数も少なくなりますが、それと同時に衰弱による排泄機能の低下も起こります。

この時期になると、尿路感染症などにかかりやすくなるため要注意。おむつや陰部の清潔を保つよう、丁寧なケアを心がけましょう。

合併症が起こりやすくなる

認知症が進行すると食べられない・動けない生活が続くため、免疫力の低下によって肺炎や尿路感染症、蜂窩織炎などの感染症リスクが格段に高まります。

中でも、死因の大部分を占める肺炎は要注意。風邪などから発展するもののほかに、口腔内の細菌を含んだ唾液が肺に流れ込んで肺炎につながるケースも少なくありません。食事をとれない状態であっても、口腔内を清潔に保つケアは欠かさず行いましょう。

また、慢性的な便秘や脱水が起こって身体のバランスが崩れることで、脳血管疾患や心疾患のリスクが高まるのも見逃せません。認知症が重度まで進行したときは、命の危険がある合併症につながる可能性もあるということを心得ておきましょう。

最後に備えて家族がやっておきたい3つのこと

最後に備えて家族がやっておきたい3つのこと

最後は、認知症の方が穏やかな最後を迎えるにあたって、介護者・家族が準備をしておきたいことを見てみましょう。

かねてから日本ではこのような話になると、「縁起でもないこと言わないで」と目をそむけてきた側面があります。しかし、最近は認知症に限らず、健康な方でも「人生の最後をどのように迎えるか自分で決める」という考えが浸透してきています。

最後の準備をすることは、人生を豊かに締めくくることにも通じます。これを機にご本人の意思や希望を確認し、ご本人・ご家族ともに穏やかな生活を目指しましょう。

① 最後に行うケアについて、選択肢を知っておく

在宅で介護を行う場合、穏やかな最後を迎えるための看取りケアや延命治療の選択肢を知っておくことが重要です。その時は突然やってくるかもしれないので、早め早めに確認しておきましょう。

症状が極度に悪化した場合、その後の対応の選択肢は主に2つあります。1つめは「医療の介入によって延命する」、2つめは「自然にまかせて穏やかなかたちで看取る」です。

延命のための治療とは、自発的な呼吸が出来ない場合に行う「人工呼吸」、口から食事が出来ない場合に胃に直接流動食を注入する「胃ろう」、血管に栄養剤を点滴で注入する「中心静脈栄養」、低下した腎機能を機械的にサポートする「人工透析」などがあります。

これらは延命の効果が期待できる反面、苦痛を伴うデメリットもあります。治療を始めたら途中でやめることも難しいので、よく考えてから選択しましょう。

一方、このような延命治療を行わず、できる限り肉体的・精神的苦痛を取り除いてその方らしい最後を迎えられるよう支援する「看取りケア」を行う選択肢もあります。

「延命治療」と「苦痛を取り除く医療の介入」は別物ですので、混同しないよう注意しながら情報収集しましょう。

② ご本人の希望を聞いておく

このように最後の迎え方にはいくつかの選択肢がありますが、何より重要なのはご本人の意思を尊重することです。「最後はどうなってしまうんだろう…… 」ではなく、「最後はどうしたいか」という前向きな視点で考えてみましょう。

ご家族は、ご本人がどのような価値観を大切にしたいのか、どのような医療を受けたいのか、または受けたくないのかなど、最後に望むケアを確認し、医療や介護に関わる専門職とも共有しておくのがおすすめです。

このようなプロセスは「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」と呼ばれており、近年その重要性が注目されています。ご本人・ご家族ともに納得できる最後を迎えるために、ぜひ取り入れてみてください。

③ 認知症の方の “老い” のスピードを知っておく

さて、ここまで認知症の方がどのような最後を迎えるのか詳しく見てきました。介護するご家族も「病気だから仕方がない」と頭ではわかっていても、対応に苦慮することも少なくなく、身体的にも精神的にも相当な負担がかかっているのではないでしょうか。

ここで、「認知症の人と家族の会」がまとめた『認知症をよく理解するための9大法則・1原則』をご紹介したいと思います。

これは介護者が認知症の症状を理解し、よりご本人に寄り添った対応をするために知っておきたいことをわかりやすくまとめたものです。

こちらの最後の項目にあたる「第9法則」では、「認知症がどのように進行・衰弱していくか」について以下のように触れられています。

認知症の人の老化の速度は非常に速く、認知症になっていない人の約3倍のスピードである。

公益社団法人 認知症の人と家族の会『認知症をよく理解するための9大法則・1原則

認知症介護は先が見えないうえ、日々めまぐるしく様々な症状がでることから介護者の負担もかなり大きいですよね。

しかし、介護には必ず終わりが訪れます。しかもそれは想像しているよりもずっと早く、“3倍のスピード” でやってくるかもしれません。こちらを知っているだけで、日々の対応も変わってくるのではないでしょうか。

まとめ

認知症が重度まで進行すると寝たきりになり、食事がとれなくなって徐々に衰弱していきます。そして最後は水分も取れなくなり、まるで枯れるように穏やかな最後を迎える方、免疫力の低下から肺炎などの感染症によって亡くなる方など、人によって様々です。

しかし、いずれも最後の時は必ずやってきますので、どこでどのように過ごしたいのか、延命治療は望むのか、望まないのかなど、あらかじめご本人に確認しておくことが大切です。

かなりセンシティブな内容ではありますが、ご本人の希望に沿った対応をすることで、遺されるご家族も納得のいくかたちで介護を終えられるのではないでしょうか。

そして、認知症を最後まで介護するということは、そこに至るまでに行き詰まってしまうことも多いと思います。そんなときに頼れる専門機関をあらかじめチェックしておき、いざというときにサポートしてもらえるよう準備しておくのが大切です。

最後の時をご本人・ご家族ともに穏やかに迎えられるよう、こちらの記事がきっかけになれば幸いです。

【参考資料】
● 公益社団法人 認知症の人と家族の会
  『No.21–思いも寄らぬ衰弱の速さ-介護期間は決して長くない
  『認知症をよく理解するための9大法則・1原則
● 医学書院 医学会新聞 関口健二
  『認知症の生命予後と終末期,どう判断する?
● 国立社会保障・人口問題研究所 (2019)
  『複合死因データの概況と突然死および認知症関連死亡の分析

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この記事を書いた人

遠藤紗織のアバター 遠藤紗織 ライター

社会福祉士・介護福祉士の国家資格を保有するWEBライターとして、専門知識を活かした情報発信を得意とします。これまでに数多くの記事を執筆し、福祉分野の深い洞察とリアルな体験をもとに、読者の理解を深め、興味を引く記事作りを心掛けています。誰もが安心して生活できる社会を目指し、情報の提供を通じてその一助となれればと思います。

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