脳血管性認知症のすべてを解説|初期症状から診断と治療・予後まで

脳血管性認知症のすべてを解説|初期症状から診断と治療・予後まで
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「脳血管性認知症ってどんな病気なんだろう?」
「家族が脳血管性認知症かもしれないが、今後どのようなことが待ち受けているのだろうか?」

このようなお悩みをお持ちの方は、とても不安な気持ちでこのページをご覧になっていることかと思います。

脳血管性認知症とは、認知症の種類の一つで、脳血管の疾患によって発症する認知症です。

脳血管性認知症の簡単な基本情報は、以下のようにまとめられます。

脳血管性認知症とは脳の血管障害で起きる脳梗塞や脳出血によって起こる認知症
脳血管性認知症の症状基本的には一般的な認知症と同じ症状(記憶障害・認知機能障害)
脳血管性認知症の経過一度壊れた部分の脳細胞はもとに戻らない
脳血管性認知症の原因脳血管障害・高血圧・糖尿病・心疾患など
脳血管性認知症の診断方法頭部CT・頭部MRI
脳血管性認知症の治療方法脳血管障害の再発予防と対症療法(改善させる治療方法はない)
脳血管性認知症の余命・予後一般的に認知症患者の余命は発症から7年から10年と言われている

家族が脳血管性認知症になった時、病の基本情報を知ることは、今後の見通しを立てたり、心の準備をすることができるので、とても大切なことです。

さらに、脳血管性認知症になった人へのケア方法や対応方法を把握すると、今後の生活においてもプラスに役立ちます。

そこで本記事では、以下のことについて、詳しく、わかりやすくお伝えします。

この記事でわかること
・脳血管性認知症とは・脳血管性認知症の症状・脳血管性認知症の経過・脳血管性認知症の原因・脳血管性認知症の診断方法・脳血管性認知症の治療方法・脳血管性認知症の人へのケア・対応方法・脳血管性認知症の余命・予後

記事の最後には、予防方法についてもご紹介します。ぜひ最後までご一読ください。

目次

脳血管性認知症とは

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脳血管性認知症とは、脳梗塞や脳出血など、脳卒中(脳の血管障害)に伴って起こる認知症です。

脳梗塞・・・脳の血管が詰まり、脳の血管の一部に血が流れなくなり、その部分の脳の働きが消える
脳出血・・・脳の血管が突然破れて出血し、脳を壊したり圧迫する

脳血管性認知症は、上記のような脳血管障害によって脳の血液の流れが阻害され、脳の一部が壊死することで発症します。

認知症には以下の4種類がありますが、脳血管性認知症はその中の1つです。

  • アルツハイマー型認知症
  • 脳血管性認知症
  • 前頭側頭型認知症
  • レビー小体型認知症

それぞれの認知症の割合は以下のようになっていて、脳血管性認知症は認知症全体の約20%を占めています。

出典:筑波大学附属病院精神神経科 『厚生労働科学研究費補助金疾病・障害対策研究分野認知症対策総合研究(都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応』

この割合は若年性の認知症においても同様の傾向が見られます。また、女性よりも男性に多く発症するのも、脳血管性認知症の特徴です。

脳血管性認知症の症状〜初期症状からその後の基本的な症状まで〜

脳血管性認知症は、初めに脳血管障害が起こり、その治療が落ち着くと徐々に初期症状が出始めます。その後出現する基本的な症状は、一般的に他の認知症と大きな違いはありません

しかし、障害を起こした脳の部位によって、症状の現れ方や経過が異なるほか、脳血管性認知症の特徴的な症状や経過があるので、そこをしっかり把握することが大切です。

そのためここでは、

  • 脳血管性認知症に特徴的な症状
  • 脳血管性認知症の基本的な症状

に分けて、脳血管性認知症の症状について詳しくお伝えします。

脳血管性認知症に特徴的な症状

はじめに、脳血管性認知症に見られる特徴的な症状をご紹介します。脳血管性認知症の特徴的な症状には、以下のようなものがあります。

  • 分野によってできることとできないことの大きな能力差がある(まだら認知)
  • 感情のコントロールができない(喜怒哀楽が激しくなる/乏しくなる)
  • 1日の中で症状が変動する
  • 抑うつや怒りの感情が出やすい
  • 脳血管障害に伴う症状

中でも脳血管性認知症の特徴的症状と言えるのが、「抑うつや怒りの感情が出やすい」という症状です。

脳血管性認知症の方は、「できること」「できないこと」を本人が自覚しています。そのため、深い悲しみや歯痒さから来る抑うつや怒りの感情が沸いたりすることが多くみられます。

また、脳血管性認知症では、脳細胞の死滅により、脳血管障害に伴う症状である運動麻痺、感覚麻痺、歩行障害や言語障害、嚥下障害や排尿障害など、さまざまな症状を併発しやすいのも特徴の1つです。

脳血管性認知症の基本的な症状

脳血管性認知症には特徴的な症状があるものの、その後に出現する基本的な症状は、他の認知症と同じです。

脳血管性認知症の主な症状
・日常生活に支障をきたすような記憶障害
・日時や曜日、場所がわからない見当識障害
・予定外のことができない、段取りができない実行(遂行)機能障害

上記の3つの症状が基本症状となります。

記憶障害は、「食事をしたことを忘れる」「メガネをどのに置いたか忘れる」など、いわゆる物忘れのような症状をさします。認知症で一番よく見られる症状です。

見当識障害は、時間や場所などが認識できなくなる症状をさします。具体的には、「今日が何月かわからない」「今どこにいるのかわからない」「家族を見ても誰かわからない」「自分の名前がわからない」などです。時間に関する見当識から始まり、だんだん進行していきます。

実行(遂行)機能障害は、段取りよく物事をこなすことができなくなります。具体的には「予定外のことに対応できない」「出かける準備ができない」「計画を立てることができない」などの症状のことです。

これらの障害は、脳血管障害そのものの症状とは異なるため、整理して理解しましょう。

【脳血管障害の症状】

脳血管性認知症では、初期の段階から脳血管障害によりしばしば見られる症状として、以下のようなものがあります。

・歩行障害・手足の麻痺・呂律が回りにくい・パーキンソン症状・転びやすくなる・排尿障害(頻尿・尿失禁など)・抑うつ・感情失禁(感情がコントロールできなくなる)・夜間せん妄(夜間に別人のようになる)・不眠・意欲低下

厚生労働省のホームページの記載によると、認知症は早期発見・早期治療が大切です。認知症のサインについてさらに詳しくは、厚生労働省のこちらのページをご覧ください。

脳血管性認知症の経過

脳血管性認知症は、一般的に階段状に症状が悪化します。脳血管の閉塞や出血に伴って症状が出現し、症状が落ち着いているかと思うと突然悪化するようなことを繰り返します。

これは、脳血管性認知症は、脳血管障害の再発により症状の進行が悪化するこの病の特徴によるものです。

残念ながら一度死んでしまった脳細胞は元に戻ることはないため、安定と改善、悪化を繰り返しながら、徐々に悪化する経過をたどるのが脳血管性認知症の特徴です。

脳血管性認知症の原因

脳血管性認知症の主な原因は、主に以下の3つが挙げられます。

原因原因の詳細
脳血管障害・脳梗塞(血管が詰まる)・脳出血・くも膜下血腫(血管が破れる)
脳小血管病・脳の細かい血管に出血や梗塞が起こる
慢性硬膜外血腫頭を打つなどの頭部外傷によって血管が破れるなどで起こる

脳血管性認知症の直接の原因は、上記に挙げた3つ、脳血管障害・脳小血管病・慢性硬膜外血腫が挙げられますが、これらを引き起こす危険因子があります。

発症リスクを高める危険因子は、以下の通りです。

  • 加齢
  • 高血圧
  • 糖尿病
  • 高脂血症
  • 喫煙習慣
  • 肥満
  • 大量の飲酒

特に血管に動脈硬化を引き起こすような生活習慣・それに起因する高血圧などは、発症のリスクを高めると言えます。

脳血管性認知症の診断方法

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脳血管性認知症は、主に以下の5つの検査で診断します。

  • 頭部CT
  • 頭部MRI
  • MR angiography
  • 脳血管造影
  • 脳血流シンチグラフィー

頭部CT・MRIを行うと、大小の梗塞を発見することができます。認知機能に重要な役割を持つ前頭葉・側頭葉・後頭葉・視床・海馬などに梗塞がある場合が多く、大きい梗塞が見られたり、小さい梗塞がたくさん見られて診断される場合があります。

脳梗塞が発見されなかった場合でも、脳血管が狭くなることで脳への血流が低下し、脳血管性認知症を発症する場合があります。

その際は、脳の血管を調べるMRA(磁気共鳴血管撮影法)や脳血管造影や、脳の血流を調べる脳血流シンチグラフィーで診断します。

【脳血管性認知症の早期発見・予防について】

脳血管性認知症は、定期的な脳ドックなど、脳を定期的に観察をすることで、発症前からリスクに気づくことができる場合があります。また、生活習慣の改善など、予防に関する情報を得ることも可能です。

現在、MRIの結果をAIで解析し、定量的に堆積の減少などを図り、認知症のリスクを測ることを可能とした技術が進んでいます。気になる方はこちらをご覧ください。

脳血管性認知症の治療方法

脳血管性認知症では、まずは原因となった脳血管障害の治療を行います。その後、脳血管性認知症の治療に入ることになりますが、同時に脳血管障害の再発予防治療も行います。

ここでは、主な治療方法である「薬物治療」と「リハビリ療法」についてお伝えします。

薬物治療

脳血管性認知症の薬物療法では、脳の損害箇所によって症状が異なるため、それに応じた薬を使って理療をします。主に服用する薬には、以下のようなものがあります。

  • 認知機能障害を和らげる薬
  • 周辺症状を和らげる薬
  • 脳血管障害の再発を防ぐための薬(高血圧薬・脳血流改善薬など)
  • 抗うつ剤(症状による)
  • 脳循環代謝改善薬(症状による)

3.脳血管性認知症の経過でお伝えしたとおり、脳血管性認知症は脳血管障害の再発によって悪化し症状が進行していきますので、脳血管障害の再発を予防することが非常に重要です。

そのために、血圧を下げる薬や血液をサラサラにする薬などが用いられます。もちろん、減塩をするなど、生活習慣に気をつけることも必須と言えるでしょう。

リハビリ療法

リハビリ療法では、脳を活性化させることで、認知症症状の進行を穏やかにすることが期待できます。また脳血管性認知症では、運動障害などのさまざまな症状を併発しやすいので、さまざまなリハビリテーションが欠かせません。

たとえば、理学療法士や作業療法士による運動機能のリハビリテーション。言語訓練士による言語機能のリハビリテーション。他にも嚥下機能のリハビリなど、さまざまなリハビリ療法が用意されています。

この治療は、通院通所して受けるのはもちろんのこと、日常生活の中でも取り入れながら、様子を見ながら脳の活性化を図ることができます。

脳血管性認知症の人へのケア・対応方法

家族や身近な人が脳血管性認知症を発症した場合、どのように対応したらいいのでしょうか?事前に把握しておきたい基本的な事項として、以下の3つをご紹介します。

  • 環境を整える
  • 規則正しい生活を保つ
  • 本人への向き合い方のポイントをおさえる

それぞれについて、見ていきましょう。

環境を整える

脳血管性認知症の人の生活環境を整えることは、とても重要なことです。脳血管性認知症を発症すると、運動機能が低下したり、知覚麻痺などの症状が現れ、転倒などさまざまな心配がでて来るからです。

ですから、日常生活を安全に送るために、福祉用具などを活用して環境を整える必要があります。

例えば、手すりをつけたり、床にものを置かないようにするなど、本人だけではなく家族の負担もできるだけ軽減できるように環境を整えるといいでしょう。

また、生活環境は症状の進行に応じて常に必要なものを取り入れたり取り除いたりして、常に本人に合った生活環境を整えられるといいですね。

規則正しい生活を保つ

脳血管性認知症を発症すると、活動の低下や意欲の低下によって、生活リズムが狂ってしまう場合があります。そうすると、不眠や昼夜逆転を引き起こし、本人も家族も辛い思いをすることになりかねません。

無理がない範囲で、1日の流れを決めたり、日課表を作ると、規則正しい生活を送ることができます。行動を可視化することで、本人も1日の流れを理解しやすくるので、ぜひ取り入れてみてください。

本人への向き合い方のポイントをおさえる

認知症の方と向き合う場合は、そのポイントを抑えておくとスムーズに伝わったり、うまくいく場合が多々あります。

基本的には一般的な認知症の人への対応方法とおさえるべきポイントは同じですが、ここでは脳血管性認知症の人に対応する場合に特におさえておきたいポイントをご紹介します。

  • まだら認知など、症状を理解した上で対応する
  • できないことを責めない
  • 苦しみを共感する
  • 適度な距離をとる
  • 生活習慣をコントロールする
  • リハビリは気長に取り組む
  • コミュニケーションの障害を理解する

脳血管性認知症の方には、とにかく柔軟に対応することが大切です。

また、家族だけで頑張りすぎるのではなく、難しく感じる場合はプロの手を借りるなど、さまざまなサービスを利用して頑張りすぎないように気をつけましょう。

詳しく知りたい方は、「認知症の人にやってはいけない17のこと」の記事を要チェック。認知症の方との向き合い方のヒントがわかります。

脳血管性認知症の余命・予後

脳血管性認知症の余命や予後は人によって異なるのが実際のところで、一概にいうことはできません。

しかし、日本神経学会の報告によると、認知症の方の余命は、発症から7年から10年とされています。また、発症後の生存期間は性別によって異なり、男性が5.1年、女性が6.7年とされています。

予後は前頭葉側頭葉認知症、レビー小体型認知症、脳血管性認知症、アルツハイマー型認知症の順に悪く、脳血管性認知症はアルツハイマー型認知症よりも少々生存期間が短くなっています。

脳血管性認知症の症状は、脳梗塞や脳出血など、発症の原因となる脳血管障害が再発することにより悪化しやすく、余命や予後に関与すると考えられるためです。

まとめ

本記事では、脳血管性認知症の概要についてお伝えしました。最後に、概要まとめをおさらいしておきましょう。

脳血管性認知症とは脳の血管障害で起きる脳梗塞や脳出血によって起こる認知症
脳血管性認知症の症状基本的には一般的な認知症と同じ症状(記憶障害・認知機能障害)
脳血管性認知症の経過一度壊れた部分の脳細胞はもとに戻らない
脳血管性認知症の原因脳血管障害・高血圧・糖尿病・心疾患など
脳血管性認知症の診断方法頭部CT・頭部MRI
脳血管性認知症の治療方法脳血管障害の再発予防と対症療法(改善させる治療方法はない)
脳血管性認知症の余命・予後一般的に認知症患者の余命は発症から7年から10年と言われている

この記事が、認知症の方とそのご家族のお役に立てれば幸いです。

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この記事を書いた人

ブレインヘルスケア・オンライン編集部では認知症や様々な脳疾患領域に関連する情報を発信していきます。「ブレインヘルスケア」という考え方を通して脳の健康について学べるメディアを目指しています。

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