「せん妄」ってどんな症状? 認知症との違いについて解説

「せん妄」ってどんな状態? 認知症との混同に要注意!
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高齢者に起こりやすい症状の1つに「せん妄」があります。「せん妄」は加齢や疾患に加え、そのときの体調やストレス、環境やくすりなど様々な要因によって引き起こされる精神機能障害の一種です。

ぼーっとしたり時間や場所がわからなくなったりする症状が現れるため、認知症に間違われることも少なくありませんが、実は全くの別物。間違った対応が状態悪化につながる恐れもありますので、正しく対処しましょう。

今回は、具体的な症状や引き起こす原因、介護者ができる対処法や予防策を詳しくご紹介します。「急激に認知症が悪化したと思ったら、実はせん妄だった!」というケースも少なくありませんので、対処が遅れてしまわないよう知識を高めておきましょう。

目次

「せん妄」とは?「せん妄」は突然発生する精神機能の障害です。

「せん妄」とは?「せん妄」は突然発生する精神機能の障害です。

年齢を重ねると様々な変化に対応するのが難しくなりますが、その影響が脳にまで及ぶと神経伝達物質の機能やバランスが悪化しやすくなります。

その結果、大脳辺縁系(帯状回・扁桃体・海馬など)が過剰に興奮したり、中脳・視床・皮質系の活動が低下したりすることで、せん妄が起こります。

せん妄は注意力や思考力の低下、日時や場所がわからなくなる見当識障害、ぼーっとしたりウトウトしたりする意識レベルの低下といった症状が現れます。

入院中の高齢者に起こりがちですが、在宅で暮らす高齢者も感染や発熱、薬の影響などをきっかけに起こることがあるので要注意。家の中ではとくに転倒やケガのリスクが高まりますので、適切な対処が必要です。

さらに、認知症の方がせん妄状態に陥ると、もともとの症状を悪化させる点も見逃せません。これについては後ほど詳しくご紹介します。まずはどのような症状が出るのか見てみましょう。

どのような症状が出るの?

どのような症状が出るの?

せん妄は発症のメカニズムから「過活動型」と「低活動型」の2つのタイプに分けられます。

「過活動型」では興奮や錯乱、妄想や幻覚などが起こりやすく、「低活動型」では認知機能の低下や傾眠など意識レベルの低下といった症状がみられます。どちらも発症時に本人の病識や自覚がないことが多く、症状が収まってからも記憶がないことも少なくありません。

ぼーっとする・ウトウトする

焦点が定まらずぼんやりしたり、ウトウトと傾眠がみられたりする症状は低活動型の典型例。意識が朦朧としている場合の歩行は、転倒のリスクが高まるので要注意です。

活動量が減った高齢者や認知症の方ではなかなか気づきにくいかもしれませんが、反応が乏しい・無表情・無気力といった症状が突然現れたときは、せん妄を疑ってみましょう。

注意力・思考力が低下する

せん妄が起こると、注意力や思考力などの認知機能が低下します。何かに集中することが難しくなるため、会話のつじつまが合わなかったり支離滅裂な発言をしたりすることも。当てもなく歩き回る徘徊など、いつもと違う異常行動も起こりやすくなります。

時間や場所がわからない

意識レベルの低下に伴って起こりやすいのが、時間や場所がわからなくなる見当識障害。自分が今いる場所や周囲の状況を理解できずに混乱したり、時間や季節に合わない行動をとったりすることがあります。

とくに夜間は症状が出やすく、「夜間せん妄」と呼ばれています。徘徊につながるリスクが高まるため、介護者は症状の変化に注意しましょう。

感情が不安定になる

感情が不安定になるのも、せん妄では起こりがち。過活動型では興奮状態になったりイライラしたりする一方、低活動型では意欲を失ったり無関心になったりします。

高齢者の場合は物静かになって内向的になる傾向があるといわれていますが、認知症の方はもともとの症状の影響もあり、症状の現れ方は千差万別。認知症の症状悪化にもつながりますので、どのような精神状態でいるのか把握に努めましょう。

妄想・幻覚が起こる

せん妄が起こると、見えないものが見える幻視や聞こえない音や声が聞こえる幻聴などの幻覚や、強い妄想を抱くなどの症状が現れることがあります。意識が朦朧としている中で起こりやすいので、突然症状が出た場合は発症を疑ってみましょう。

せん妄と認知症は間違われやすい! その違いは?

せん妄と認知症は間違われやすい! その違いは?

ご紹介したとおり、せん妄は症状の幅がかなり広く、見分けづらいのが難点です。しかも、どれも認知症の症状とそっくりではありませんか?

両者は症状が似ているのでしばしば混同されがちですが、せん妄と認知症は明確に区別されています。見分けのポイントを3つ見てみましょう。

「症状」の違い

1つめは、症状の違いです。どちらも似ていますが、せん妄は「意識の障害」が中心になるため、注意力や思考力に影響がでます。一方、認知症は「記憶の障害」が中心になるため、意識自体はおおむね正常に保たれるのが特徴です。

認知症の進行度合いにもよりますが、突然普段と違うぼーっとした様子・ウトウトしている様子が見られた場合はせん妄が疑われるので、注意しましょう。

「発症の仕方」の違い

2つめの違いは、発症の仕方です。せん妄は突然発生するので、多くの場合はいつ始まったのかをはっきり特定することができるでしょう。

一方、認知症は一般的にゆっくり進行するため、いつ始まったのか特定するのは困難です。「突然目の前の人が誰だかわからなくなって混乱している」「夜中に突然怯えるように叫んでいる」といった場合は、せん妄の可能性を疑ってみましょう。

「経過の仕方」の違い

3つめは、経過の違いです。せん妄の継続期間の多くは数日間、長くても数ヵ月間で、この中で良くなったり悪くなったり、変動しながら経過をたどり、原因を取り除くことで快癒します。

しかし、認知症は症状の現れ方に波はあるものの今の医療では完治は難しく、おおむねゆるやかに進行していくのが特徴です。せん妄は適切に対処することで改善が見込まれるので、症状が認知症から来るものだと決めつけず、主治医と連携を図りながら対応していきましょう。

認知症の方はとくに注意!

認知症の方はとくに注意!

せん妄と認知症は別物ですが、認知症の方がせん妄を合併することも珍しくありません。そのような場合「認知症の症状が急激に進行した」ように見えたり、せん妄の改善によって「認知症が改善した」ように見えたりすることがあります。

せん妄は認知症の症状を強くさせる要因にもなるので、症状が急激に悪化したと感じるときは、せん妄が起こっている可能性も考慮しましょう。

せん妄の原因とは?

せん妄の原因とは?

ここからは、発症の原因を詳しく見てみましょう。せん妄は準備因子・誘発因子・直接因子の3つが複数重なり合い、脳の過剰興奮や活動低下を引き起こすことで起こると考えられています。

①準備因子

準備因子は、もともと患者自身が持っている脆弱性を指します。例えば、高齢であること・認知症や脳血管疾患を患っていること・その他の慢性疾患の既往歴などがこれに当たります。

先行研究によると、準備因子だけが原因となったケースは約3割。少ない割合ではありますが、高齢に加えて認知症などの疾患が重なることで、せん妄を起こしやすい状態になっていることを認識しておきましょう。

②促進因子

促進因子は他の要素と重なることでせん妄を誘発させる要因となるもので、例えば睡眠不足や環境の変化、ストレスなどがこれに当たります。

中でも睡眠不足の影響は大きいため、それに繋がりやすい入院や転居といった環境の変化や極度の不安、疼痛などがある場合は要注意。促進因子は介護者や医療従事者のアプローチによって影響を最小限にできるので、発症を予防する対策が重要です。

③直接因子

直接因子は、せん妄の発症に直接つながる要素を指します。例えば、大きな手術や感染症などの急性疾患、薬物、電解質異常(水分不足や水分過多)などがこれに当たります。

高齢者や認知症の方は、ささいなきっかけでもせん妄を起こすことがあります。いつもと違う薬を使う・長く使っていた薬を止めるといった場合や水分不足など、健康な成人ではそれほど影響がないようなことにも十分注意しましょう。

せん妄が起こったらどう対応する?

せん妄は突然発症するので、普段と違う姿に介護者も戸惑ってしまいがちです。しかし介護者の動揺がご本人に伝わると、さらなる状況の悪化を招きかねません。まずは慌てず落ち着いて、冷静に対応しましょう。

対処法は、「原因を取り除く・症状を軽減させる」の両面からアプローチしていくのが基本となります。

原因を取り除く

まずは原因への対処が重要です。「直接因子」が引き金になっている可能性が高いので、まずはそちらをチェックしてみましょう。

とくに急を要して対応が必要なのは、水分不足。身体の水分が不足すると電解質のバランスが崩れてせん妄を引き起こしますが、これは生命の危機にも直結します。身体からのSOSを見逃さず、迅速に対応しましょう。

環境を調整する

せん妄が起きたときは、周囲の環境を変えるのも重要です。とくに夜間に症状がでたときは、電気をつけて周囲の状況を把握しやすくするのが効果的。

無理に押さえつけたり叱責したりすると、さらなる不安や恐怖につながりますので、ご本人の困惑を受け止めて穏やかな対応を心がけましょう。

見当識障害が起こっている場合は、目の前にいる介護者がわからなくなっているケースも少なくありません。ご本人の名前を呼びかけ、介護者の名前を伝えて安心してもらえるよう落ち着いて対応しましょう。

薬剤を調整する

薬剤がせん妄を引き起こす原因になっているケースも少なくありません。

中でも麻薬や向精神薬などの中枢神経に作用する薬はせん妄を引き起こしやすいといわれていますが、その他の薬が影響することもあります。新しい薬を飲み始めるときや普段飲んでいる薬を止めるときは、とくに注意しましょう。

また、せん妄の治療として症状を緩和させる薬剤を使う場合もあるので、主治医と連携して対応しましょう。薬物療法は全身状態の改善・環境の調整・薬剤の調整を考慮したうえで行うのが基本ですので、まずは「原因を取り除く・環境を変える」を試みるのも重要です。

せん妄を予防する習慣と環境づくりが重要!

せん妄を予防する習慣と環境づくりが重要!

最後は、せん妄を予防するためのポイントをご紹介します。直接因子と準備因子はコントロールするのが難しいので、予防では促進因子をできるだけ取り除くことに注力しましょう。どちらも日々の生活で取り入れやすいことですので、取り組んでみてくださいね。

生活リズムの改善

せん妄を引き起こす大きな原因となっているのが睡眠不足です。睡眠不足に陥らないよう、日中は活動的に過ごして生活リズムを整えましょう。

とくに認知症の方は夕方以降不穏になりやすいので、穏やかに過ごせるよう環境づくり・対応ともに工夫するのが重要です。お昼以降はカフェイン摂取を控え、ときには散歩に出るなど軽く身体を動かして良質な睡眠につなげましょう。

現状を把握しやすい環境づくり

せん妄を予防するためには、現状を理解しやすい環境づくりが効果的です。目につくところに時計やカレンダーを配置したり、日々の会話の中で今いる場所や時間、今後の予定を伝えておいたりしましょう。

とくに、認知症の方は不安やストレスが強くなりがちです。見当識障害があっても安心できるよう、日用品など馴染みのものを目につくところに配置して “安心できる場所” を目指しましょう。

まとめ

環境や身体の変化に対応するのが難しい高齢者は、せん妄のリスクが高まっています。今まで特別な症状がなかった方も、いつ症状が起こっても不思議ではありません。

せん妄で意識が朦朧とすると、転倒やケガ、周囲との思わぬトラブルにつながることもありますので、異変に気づいて早め早めに対応するのが重要です。症状の裏に重大なリスクが隠れていることもあるので、いつもと違う症状は見逃さないようにしましょう。

また、認知症の方はせん妄の出現によってもともとの症状が強く出てしまうことがあります。認知症を完治させることは難しいですが、せん妄の原因を取り除くことで状態がよくなる可能性があるので、両者の違いを見極めて適切に対応しましょう。

せん妄を予防する生活習慣や環境づくりも認知症の症状緩和に共通する部分が多いので、ぜひ取り入れてみてください。

【参考資料】
● 公益財団法人 甲南会 甲南医療センター 
  『せん妄について
● 看護roo!
  『せん妄
  『せん妄はどのようなメカニズムで発症するのですか?
  『せん妄を鎮めるくすりには何がありますか?

「せん妄」ってどんな状態? 認知症との混同に要注意!

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この記事を書いた人

遠藤紗織のアバター 遠藤紗織 ライター

社会福祉士・介護福祉士の国家資格を保有するWEBライターとして、専門知識を活かした情報発信を得意とします。これまでに数多くの記事を執筆し、福祉分野の深い洞察とリアルな体験をもとに、読者の理解を深め、興味を引く記事作りを心掛けています。誰もが安心して生活できる社会を目指し、情報の提供を通じてその一助となれればと思います。

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